第218話 2打席連続?

 ワンアウト二塁のチャンスで迎えるのは3番の岸選手である。

 岸選手は元々は一番打者だった。

 俊足であり、長打力もあるが、打球を打ち上げてしまう癖があり、出塁率はそれほど高くなかった。

 そのためここ数シーズンは一番打者よりも三番での出場が増えている。

 三番に入ってからは、チームバッティングを心がけるようになり、凡退してもランナーを次の塁に進めるバッティングをするようになった。

 それに伴い打率も上がってきている。


 初球。

 真ん中低めへのカットボール。

 昔の岸選手なら簡単にゴロを打ってしまったが、あえて見逃した。

 ストライクワン。


 2球目。

 外角低めへのストレート。

 これもバットを出さない。

 判定はストライク。


 3球目。

 内角高目へのツーシーム。

 仰け反って避けた。

 これでワンボールツーストライク。


 4球目。

 外角へのスライダー。

 昔なら追いかけて空振り三振というところだが、見極めて判定はボール。


 5球目。

 外角低めへのスライダー。

 ファールで逃げた。

 カウントは変わらずツーボール、ツーストライク。


 6球目。

 外角高めへのストレート。

 これも見極めた。

 これでスリーボールツーストライクのフルカウント。


 7球目。

 内角高めへのストレート。

 辛うじてバットに当てた。


 そして8球目。

 外角低めへのチェンジアップを見送ってフォアボール。

 泉州ブラックスに取っては、ワンアウト一、二塁のチャンスで4番の岡村選手を迎えた。


 そして初球。

 僕と岸選手はスタートを切った。

 意表をつくダブルスチール。

 キャッチャーの古馬捕手からの送球が三塁に来た。

 タイミングは同時に思える。

 判定は?

「セーフ」

 三塁手はボールを落としていた。

 これでワンアウト二、三塁の大チャンスとなった。

 これが泉州ブラックスである。

 伝統的にイケイケであり、1点を取る野球というよりも大量点を狙う野球を好む。


 そしてこの回、岡村選手の犠牲フライで1点を先制した。

 5番のデュラン選手が三振に倒れたので、もし盗塁をしていなかったから無得点に終わっていただろう。

 積極策が幸を奏した。


 泉州ブラックスの先発は杉田投手。

 同世代という事もあり、泉州ブラックスはの移籍当初から公私共に親しくしている。

 今はお互いに寮を出たが、寮にいる時分は良くオフの日に一緒に遊びに行ったものだ。

 結衣に合わせたくない人間の一人である。


 杉田投手は毎年ローテーション入りを期待されるが、なかなか成績が安定しない。

 調子が良い時と悪い時がはっきりしており、また序盤は良くても途中で急に崩れることがある。

 調子が悪くても悪いなりにまとめられないと、なかなか先発ローテーションに定着することはできない。

 昨シーズンも3勝5敗と負け越した。

 今シーズンにかける思いは強いだろう。


 杉田投手は先頭バッターをフルカウントからフォアボールで歩かせ、送りバントでワンアウト二塁のピンチを背負った。

 しかし続く3番の境選手、4番のジャック選手から連続で三振を奪った。

 今日は調子が良いのかも。


 2回表、ツーアウトから8番の高台選手、9番の山形選手が連続でフォアボールを選び、ツーアウト一二塁のチャンスで僕の打席を迎えた。

 ここで打ったら、チームは乗っていける。


 初球。

 真ん中低めへのチェンジアップ。

 右方向に打ち返した。

 打球はフラフラとライト方向に上がり、岡谷選手が猛ダッシュしてきたが、その前に落ちた。

 ツーアウトなので、打った瞬間にランナーはスタートを切っている。

 二塁ランナーはあまり足が速くない高台捕手であるが、果敢にホームを狙う。

 岡谷選手からは素晴らしいバックホームが来た。

 タイミングは微妙だ。

 判定はどうだ?

 

「セーフ」

 高台捕手は体をうまくよじり、タッチをかいくぐっていた。

 東京チャリオッツからのリクエストは無い。

 え、ということは?

 2打席連続のヒット。

 しかも2打席目はタイムリーだ。

 僕は一塁ベース上でちいさくガッツポーズをした。


 更にツーアウト一二塁のチャンスだったが、ここは2番の泉選手が三振に倒れた。

 タコを食べたせいで不振脱却したか?

 僕は軽やかな足取りでショートのポジションへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る