第369話 クライマックスシリーズに向けて

 試合は2対1のまま敗れ、熊本ファイアーズとは勝率の差で順位が入れ替わってしまった。


 五香投手は6回を2失点と、先発としての役割は果たしたものの、5敗目(3勝)を喫した。

 上位打線はよく抑えたが、下位打線、しかも今シーズンホームラン0本コンビに打たれたのは、今後の反省材料だろう。


 ファンの皆様は「何やっているんだ」と思うだろうが、致し方ない面もある。

 というのも先発ピッチャーは5回を投げきる事を期待されており、そのためにはペース配分も大事である。

 

 1回から全力したら、とても5回はもたない。

 だからメリハリも大事なのだ。

 とは言え、下位打線にホームランを、しかも2本も打たれたことは頂けない。

 日本球界で五香投手が、更に活躍するためには、力を抜いた時も抑えられる投球術を身につける必要があるだろう。

 

 熊本ファイアーズに対して負け越したことで、首位の京阪ジャガーズとは絶望的な差となってしまったし、4位の仙台ブルーリーブスとも2.5ゲーム差に縮まってしまった。

 同一カード三連敗でひっくり返されてしまう差である。


 さて、今は僕は仙台にいる。

 一昨日から、仙台ブルーリーブスとの3位攻防の三連戦。

 シーズンも終盤となっており、ここでもし三連敗など喫した日には、ダメージは計り知れない。


 その大事な試合で、2連敗を喫してしまった。

 優勝は数字の上では可能性を残しているものの、ほぼ無くなり、2位の熊本ファイアーズとも2ゲーム差。


 そして4位の仙台ブルーリーブスとは0.5ゲーム差。

 クライマックスシリーズ進出すら危なくなってきた。


 そして大事な3戦目、今日のスタメンは次のとおり。


 1 西野(ライト)

 2 野中(レフト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 下山(センター)

 6 ロイトン(セカンド)

 7 浅利(ショート)

 8 上杉(キャッチャー)

 9 佐竹(ピッチャー)


 あれ、と思った方もいらっしゃるだろう。

 そう、僕と谷口はスタメン落ちしたのだ。


 僕は最近、調子を落としており、この2試合で10打数無安打。

 エラー2つ…。


 しかも2つ目のエラーは昨日の8回裏、ワンアウト一、二塁の場面での平凡なショートゴロを捌いた際に、セカンドに悪送球してしまったのだ。


 しかもボールは、ファールゾーンまで達し、二人のランナーがホームインしてしまった。

 これが決勝点になり、チームは敗れた。


 言い訳はできない。

 プロとして百発百中でなければ、いけないプレーだった。

 認めたくは無いが、無意識に気の緩みがあったのだと思う。


 今シーズン、試合に出ることが当たり前になっていた。

 ケガで欠場もあったが、それ以外はほとんどの試合にスタメン出場し、規定打席にもすでに到達した。


 それが自分の中で、驕りになっていたのかもしれない。

 今日の試合もスタメンで出ることを疑っていなかった。

 球場に来る際も、昨日のミスを取り返すことだけを考えていた。


 首脳陣からそういうところを見透かされたのかもしれない。

 レギュラーを掴むまでの僕はもっとガムシャラだった。

 僕は試合前のセレモニーを見ながら、そんな事を考えていた。


 今日は谷口もスタメン落ちだ。

 相手が右の作保投手であり、谷口が特に苦手としているピッチャーというのがその理由だろう。


 試合は2回表に、僕の替わりに出場した、浅利選手のタイムリースリーベースで1点を先制した。

 浅利選手は今年、32歳で守備は安定感があるものの、バッティングは不得意だ。


 だが出場機会に飢えていたのだろう。

 少ないチャンスで結果を出した。

 僕は複雑な思いを抱えながら、試合を見ていた。

 

 チームはクライマックスシリーズ出場に向けた正念場であり、チームメートの活躍は喜ぶべきだろう。

 だからベンチに戻ってきた浅利選手とは、笑顔でハイタッチした。


 だが…。

 僕はベンチ裏で素振りをした。

 今日の試合、チャンスがあるかはわからない。

 だがもしチャンスを与えられれば、精一杯やってやろう。

 そう考えていた。

 

 

 

 

 


 


 

 

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