第487話 ポストシーズンと予期せぬ再会

 ポストシーズン男という言葉がある。

 レギュラーシーズン中はあまりパッとしなくても、ポストシーズンの短期決戦で活躍した選手の事を指す。

 そしてその反対を逆ポストシーズン男と呼ぶ。


 クライマックスシリーズのセカンドステージ。

 迎え撃つ相手は、ファーストステージで京阪ジャガーズを2連勝で退けた、シーズン3位の熊本ファイアーズである。

 熊本ファイアーズとはレギュラーシーズンで、11.0ゲーム差をつけていた。


 だが、こういう短期決戦では、先に流れを掴んた方がそのまま、勝ち進む事がある。

 

 我が札幌ホワイトベアーズは、初戦、青村投手が8回を1失点で抑えたものの、完封負けを喫し、結局流れを取り戻すことができないまま、2勝(アドバンテージの1勝含む)4敗で敗れてしまった。


 敗因は打線の不調に尽きる。

 この5試合通算のチーム打率は.178で総得点は9点。

 僕も18打数3安打と不調に陥ってしまった。

 道岡選手は打率.200、湯川選手も打率.125、ダンカン選手に至っては打率.091(ホームラン1本)と主力選手が軒並み不振に喘いだ。

 逆ポストシーズン男が何人も誕生してしまっては、勝つのは厳しい。


 主力では唯一、谷口が打率.350(ホームラン2本)と、気を吐いたものの焼石に水であった。


 ということで想定よりも早く、今シーズンが終わってしまった。

 それでもリーグ優勝したことが消えるわけではない。

 12月の優勝旅行が楽しみだ。

 人生2回目のワイハ♪、ワイハ♪。

 たーのーしーみーだー。

 ところでワイハにはハメハメハ大王はいるのかな?

 その子供はやっばり風が吹いたら遅刻して、雨が降ったら休むのかな。

 そう言えば翔斗にとっては初の海外だ。

 翔斗は何故か、水着のお姉さんが好きなので、その点は心配だ。


 シーズンが終わると、若手選手には秋季キャンプという名の地獄の業がある。

 だが僕は来季は10年目を迎える中堅選手であるため、免除されており、その間は茨城の二軍施設で個人練習をしている。

(ちなみに湯川選手は参加させられている。シーズンの疲れがある中、可哀想に)


 そしてシーズンオフには様々な球団行事があり、その一つが野球教室である。

 札幌ホワイトベアーズは本拠地は北海道であるが、二軍施設は茨城県内にあるので、僕は駒内選手と一緒に県内のとある自治体に赴き、リトルリーグの子どもたちを対象に野球教室を行うことになった。


「おう、高橋久しぶりだな」

 会場となるグラウンドに行き、球団スタッフの戸田さん、駒内選手と打ち合わせしていると、後ろから声をかけられた。

 

 振り向いたが、一瞬誰だかわからなかった。

 そのユニフォーム姿の男性は背が高く、肩幅も広く、大柄で頭髪には少し白いものが混じっていた。

 だが確かに見覚えがある。

 僕は記憶を呼び起こした。

 

「あの、もしかして、内沢さんですか?」

「おう、覚えていてくれたか。ありがとよ」

 内沢さんとは、静岡オーシャンズ時代の先輩だ。

 僕が指名されたドラフトの2年前にドラフト1位で内野手として入団し、僕なんかよりも遥かに将来を嘱望されていた。

 

 だが次第に出場機会を減らし、7年目のシーズン終了後、戦力外通告を受け(第125話)、育成契約を結ぶも1年で再び戦力外になった。(第187話)

 トライアウトは受けず、その後の消息は知らなかった。

 

「お久しぶりです」

「そうだな。何年ぶりだ。

 高橋が人的補償で泉州ブラックスに行って以来か」

「恐らくそうですね。

 だとしたら6年振りでしょうか」

「そうか…。そんなに経つのか」

 内沢さんはそう言って、暫し遠くを見つめた。

 

「内沢さんはどうしてここにいらっしゃるんですか?」

「ああ、俺は普段は水戸市内の会社で働き、休日はリトルリーグの監督をやっている」

 なるほどそういうことか。

 

「今日はよろしくな。

 俺も元プロ野球選手ではあるが、やはり現役のプロ野球選手が来るとなると、子どもたちの目の輝きが違う。

 あいつらも皆、今日の事を楽しみにしていたみたいだ」

 そう言って、内沢さんはウォーミングアップのキャッチボールをしている、子どもたちに視線をやった。

 まさかこんなところで再会するとは…。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る