第341話 1点を巡る攻防

 グラウンド整備、そしてジャガーズガールのパフォーマンスが終わり、いよいよ6回表の攻撃となった。


 札幌ホワイトベアーズはこの回は7番からのダンカン選手からの攻撃だ。

 下位打線なので、この回の得点は期待できない。

 9番の須藤投手に打順が回るので、代打が出るかもしれない。


 ダンカン選手は今日の車谷投手には全く合っていない。

 初球、内角低目へのカーブ。

 やや甘く入った。

 車谷投手の今日、唯一の失投かもしれない。


 ダンカン選手はバットでボールを掬い上げた。

 打球は良い角度で上がり、京阪ジャガーズファンが陣取るライトスタンドに吸い込まれた。


 ウォー。

 雄叫びを上げ、ダンカン選手はガッツポーズして走りだした。

 車谷投手は呆然とライトスタンドの方向を見ている。

 これが野球の怖さだ。

 これまで付け入る隙を与えていなかったのが、ほんの一球の失投である。

 そしてそれを逃さなかったダンカン選手も流石だ。


 ダンカン選手がダイヤモンドを一周し、ベンチに戻ってきた。

 僕らはベンチ前で出迎え、掌タッチ及びハイタッチをした。


 さあ、畳み掛けていきたい。

 ところが車谷投手は立ち直り、後続を三者三振に抑えた。

 1点は失ったとは言え、やっぱり良いピッチャーだ。

 僕はネクストバッターズサークルから、谷口が三球三振に倒れるところを見ながらそう思った。

 

 ちなみに9番の須藤投手のところで、今泉選手が代打で出たので、札幌ホワイトベアーズは6回からは継投に入る。

 この虎の子の1点を守りきれるか。


 6回裏は鬼頭投手がマウンドに上がった。

 7回以降は、ルーカス投手、大東投手、新藤投手と勝ちパターンの3人がいるので、この回をいかに抑えるかが、この試合の勝敗を左右する。


 この回の京阪ジャガーズの攻撃は、5番の弓田選手からの攻撃だ。

 初球。

 鋭いハーフライナーが三塁線を襲った。

 だがそこには名手、道岡選手。

 いとも簡単に掴み取った。

 簡単なプレーに見えるが、かなり難易度の高いプレーだ。

 もし逸らしていたら、ノーアウト二塁は必至だっただろう。


 6番の天野選手にはスリーボールとしてしまったが、ファール2つでフルカウントまで持ち直した。

 そして6球目、渾身のストレートを外角低めに投げ込んだ。

 天野選手は手がでず、見逃しの三振。


 さらに7番の木崎選手にも、スリーボールから、ど真ん中のストレートで、大きなセンターフライに打ち取った。

(打った瞬間、完全にスタンドインと思ったが、腕を振った分、やや球威が勝っていたようだ)


 鬼頭投手が中継ぎでそこここ活躍できているのは、やはりこの度胸だろう。

 やけのやんぱち、日焼けのなすび…、というようにピンチになるとど真ん中にストレートを投げ込む。

(そう言えば顔も一重で四角っぽく、あの人気日本映画の主人公に似ているかも…)

 もっとも以前(293話)のように、ホームランを打たれてしまう事もあるが…。

 

 鬼頭投手は悠々とベンチに引き上げてきた。

 何はともあれ、1回を無失点に抑え、役目を果たしたと言えるだろう。


 7回表は僕からの打順だ。

 何度聞いてもラッキーセブンの攻撃前の球団歌を聞くと、気分が盛り上がる。

 さあ、塁に出てやる。

 京阪ジャガーズのマウンドは、引き続き車谷投手。

 今日3回目の対決だ。


 バッターボックスに入る前にちらっとサードの天野選手の守備位置を見た。

 特に前進はしていない。

 ベンチのサインは、「何としても塁にでろ」だった。

 言われなくても、わかってますがな。


 初球。

 投球と同時に僕は、セーフティーバントの構えをした。

 ところが天野選手がダッシュしてきたのが横目に見えた。

 しかしここはチャレンジだ。

 かまわずサード側に転がした。


 うまい具合に三塁線ギリギリに決まったが、相手は名手天野選手である。

 僕は懸命に走り、一塁を駆け抜けた。

 一塁ベースを踏むのと、送球が届くのはほぼ同時に思えた。

 判定は?

 

「アウト」

 球場内が大きく湧いている。

 札幌ホワイトベアーズベンチはリクエストした。

 

 オーロラビジョンにリプレイが流れる。

 天野選手は素手で掴み、無駄のない動きで一塁に送球していた。

 その動きは敵ながら、惚れ惚れするような無駄のない動きだった。


 やがて審判団が出てきた。

「アウト」

 やっぱりそうか。

 仕方が無い。

 相手が悪すぎた。

 完全にセーフティーバントを読まれていた。


 この回は続くロイトン選手、道岡選手も凡退し、三者凡退に終わった。


 7回裏のマウンドはルーカス投手。

 8番の城戸選手からの打順だったが、気合の入ったピッチングで三者凡退に抑えた。


 試合は終盤、8回を迎えた。


 


 

 

 

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