第96話 シーズン終了

 クライマックスシリーズのファーストステージの2試合目は、四国アイランズが意地を見せた。

 泉州ブラックスの強力打線は、先発の来島投手に3安打無得点に抑えられ、3対0で敗れた。

 これで1勝1敗のタイとなった。


 勝負の3戦目、泉州ブラックスは今シーズン、8勝6敗の新外国人、マイヤー投手を先発に立てた。

 マイヤー投手は良く粘り、5回を3失点で抑えたが、後続の投手が打たれ、8対2で敗れた。


 僕は9回の表に代走で出場したが、何もせずに終わってしまった。

 これで今シーズンは終了である。

 

 クライマックスシリーズが終わると、高知での秋季キャンプがあり、僕も参加した。

 キャンプではショートの練習にも取り組んだ。

 というのもショートのレギュラーは、攻守走に優れた額賀選手ががっちりつかんでいるが、控えの層は薄い。

 だからショートも守れるようになれば、出場機会が増えるかもしれない。 

 ショートは高校時代にやっていたが、プロではセカンドの動きが体に染みついていたので、最初は戸惑いが大きかった。

 だがキャンプを通じて、戸塚内野守備走塁コーチの猛特訓を受けたことで、何とか形になってきた。

 戸塚コーチからは、春期キャンプでもショートの練習をするように言われている。

 

 そして11月に入ると、待望の契約更改である。

 僕は今までは契約更改にはあまり期待していなかった。

 これまでは統一契約書に書かれた金額に、判子を押すだけであり、場所も寮だった。

 だが今回は僕も球団事務所で行なった。

 一軍の戦力として認められたということだろうか。


 結論から言うと、来期年俸は1,100万円。

 今季から400万円のアップだ。

 金額を見た時はとても嬉しかった。

 契約金が1,000万円だったので、それを越えたことになる。

 

 今回のドラフトで僕と同年代の大卒選手が指名されて入ってくる。

 上位指名の大卒選手はいきなり1,000万円以上の年俸を貰うことも珍しくないが、それでも最初の年俸が440万円だったことを考えると、感慨深いものがある。


 だが僕も来季はプロ入り5年目。

 5年経つと、寮を追い出され、一人暮らしをしなければならないので、もう少し稼がなければ。


 秋季キャンプが終わると、シーズンオフだ。

 もちろん僕はまだまだの選手なので、トレーニングを継続する。


 昨年はまさかの黒沢選手のフリーエージェントの人的補償での移籍があり、激動のオフだったが、今回は落ち着いて過ごせるのでは無いだろうか。


 年末には静岡オーシャンズのドラフト同期との忘年会がある。

 今回は飯島さんが音頭を取ってくれた。

 遅ればせながら、三田村の送別会でもある。

 

 今回はなんば駅近くの個室居酒屋に集まった。

(三田村は今は実家のある和歌山に帰って、受験勉強に取り組んでいるので、出てきやすいところを選定したのだ)

 

 ちなみにドラフト同期の各成績は以下のとおりだった。

(年俸は推定)

 

 今期は杉澤さんは、29試合に登板し、9勝11敗、防御率3.97と3年連続の二桁勝利を逃し、あまり調子があがらないまま終わってしまった。

 来季年俸は500万円減の1億1,500万円。


 谷口はプロ入り最多の41試合に出場したが、打率.228、ホームラン1本とあまり成績を伸ばせなかった。

 来季年俸は240万円増の1,200万円。


 竹下さんは51試合で打率.250と数字の上ではプロ入り最高の打率だが、打数、安打ともプロ入り最小だった。

 来季年俸は200万円減の2,200万円。


 原谷さんは21試合に出場し、打率.222、ホームラン1本。

 年俸は150万円増の900万円。


 押し並べて、あまり良い成績を残せなかった。

 竹下さん、原谷さんは来季は正念場かもしれない。

 

「隆、いつになったら彼女の友達を紹介してくれるんだ」

「お前、受験生だろう。

 それどころじゃないんじゃないの」

「いや、大丈夫だ。

 やはり勉強には張り合いがないとな。

 別にボランティアが好きな娘じゃなくても構わんぞ」

 お前が良くても相手が良くない。

「勉強は進んでいるのか?」

「ああ、再来年に向けて頑張っている」

 もう諦めたのか。

 

「竹下さん、何か暗いですね」

「そうか?、まあそうだろうな。どうせ明日、発表となるからいいか。

 実は俺、トレードが決まった」

「え?」

「マジですか?」

「どこへですか?」

 僕らは驚いた。


 竹下さんはビールジョッキを飲み干した。

「川崎ライツだ」

 僕らは絶句した。

 こんな時、何と言えば良いのだろう。

 

「相手は誰ですか?」と杉澤さん。 

「宮永投手だ。

 静岡オーシャンズとしては、今期、中継が不足していたのでその補強だろう」

 確かに今期の静岡オーシャンズは、黒沢選手の加入により、打線は強化されたが、投手陣はあまり調子が良くなく、それがクライマックスシリーズ進出を逃した要因と言えた。

 

「まあ、今の所静岡オーシャンズには足が速い外野手は揃っているから、出場機会が減っていたし、俺に取ってもチャンスかもしれん」

「そうですか……、寂しくなりますね」

「ありがとよ。

 来年もこの会には呼んでくれよ」


 しかしドラフト同期7人のうち、静岡オーシャンズで5年目を迎えるのはこれで3人になるのか。

 プロの世界はやはり厳しい。

 改めてそう感じた夜だった。

 

 

 


 

 

 

 


 

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