第337話 エースが抜けても強いチームは強い

 京阪ジャガーズは昨シーズン優勝し、今シーズンも2連覇に向かって快調に飛ばしている。

 大型補強と若手の成長がうまくマッチし、ここまで2勝1敗ペースと2位の熊本ファイアーズ以下を大きく引き離していた。


 我が札幌ホワイトベアーズとしても、上を目指すためには京阪ジャガーズを叩いておきたい。

 強いチームは先発の頭数が揃い、またそれらが安定しているものだが、京阪ジャガーズもその例に漏れず、車谷投手、加藤投手、宗投手の3本柱が安定していた。


 強いチームは補強も怠らない。

 絶対的なエースであった山崎が抜けたが、その穴埋めに大リーグ通算48勝のピーター投手を獲得した。

 

 そしてピーター投手は期待に応え、開幕から先発ローテーションの一角を担っていた。


 京阪ジャガーズは攻撃陣も充実しており、特に4番の下條選手はホームラン22本でホームランランキングの首位を走っている。


「ここは三連勝して、上との差を縮めるぞ」

「おう」

 試合前ミーティングで、金城ヘッドコーチの掛け声に、僕らは応えた。

 今日のスタメンは以下の通り。


 1 谷口(レフト)

 2 高橋(ショート)

 3 ロイトン(セカンド)

 4 道岡(サード)

 5 下山(センター)

 6 上杉(キャッチャー)

 7 ダンカン(ファースト)

 8 須藤(ピッチャー)

 9 野中(ライト)


 あれ?

 まず僕はスタメン発表時に1番で名前を呼ばれなかったので、驚いた。

 そして打順もいつもと大きく違う。

 何を考えているのだ?

 

「何で今日、僕は2番なんですか?」

 僕は金城ヘッドコーチをベンチ裏で捕まえて聞いた。

 

「おう、何となくだ」

 簡潔かつ無意味な回答だ。

「そ、そうですか…」

 僕は脱力し、ロッカールームに戻った。

 せめて何かしらの理由が欲しかった…。

 

「おい、俺が出たらちゃんと送りバント決めろよ。

 失敗したら罰金だからな」

 谷口が僕に言いがかりをつけてきた。

「うるせぇ、お前こそちゃんと走れよ。

 ていうか、お前が塁にいるより俺が塁にいた方がいいだろう。

 だから失敗してもランナーが入れ替われば、結果オーライだろう」

 というように谷口とも作戦会議をした。


 京阪ジャガーズの先発は、エースの車谷投手。

 ここまで9勝1敗で、勝利投手ランキングの単独トップとなっている。

 防御率は1.79。


 伸びのあるストレートと、カットボール、ツーシーム、カーブ、チェンジアップ、スプリットを操る。

 ほとんど同じフォームから、テンポよく投げ込んでくるので、術中にはまると凡打の山を築いてしまう。

 とても厄介な投手だ。


 プレイボールがかかり、谷口が打席に立った。

 追い込まれると、落ちるボールの餌食になってしまうので、ノーチャンスである。

 だからファーストストライクから積極的に打っていくように、麻生バッティングコーチから指示を受けている。


 初球。

 緩やかなカーブ。

 谷口は慌てて手を出してしまった。

 平凡なセカンドゴロで、ワンアウト。


 よし仇をとってやるぜ。

 僕は項垂れながら帰ってきた谷口を横目で見ながら、気合を入れた。


 初球。

 ど真ん中へのストレート。

 よし、狙い通り。

 待ってました。

 僕は強振した。


 ところがボールが微妙に変化した。

 僕はボールの上っ面を叩いてしまった。

 注文通りのピッチャーゴロ。

 2球でツーアウトとなってしまった。


 僕も項垂れながら、麻生バッティングコーチと目を合わせないようにして、ベンチに戻った。


 カキーン。

 ベンチに座るやいなや、打球音が耳に入った。

 僕はベンチから乗り出して、打球の行方を目で追った。


 良い当たりに見えたが、差し込まれていたようで、平凡なセンターフライ。

 この回、何と3球で攻撃が終わってしまった。


 ヤレヤレ。

 僕はグラブを掴み、ショートの守備位置に向かった。


 

 

 


 

 

 

 

 

 

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