第568話 バカヅキと飼い猫に…?

 井本投手から盗塁を決めるには、チェンジアップかカーブを投げた時が良い。


 つまりその見極めが大事である。

 初球。

 僕はカーブを投げると読んだ。

 つまり盗塁チャンスだ。


 そして投げた瞬間、スタートを切った。

 投球は予想通りカーブ。

 キャッチャーからの素晴らしい送球が来たが、セーフ。

 僕は軽くガッツポーズした。


 岡谷選手はセカンドゴロに倒れたが、僕は三塁に進み、続く下山選手の浅いライトフライでホームインした。

 自分で言うのも何だが、ランナーが僕でなければこの1点は取れなかっただろう。


 先発の五香投手は初回から、フルパワーで投球し、ツーアウト一三塁のピンチを背負うも、ショートの攻守もあって無失点で切り抜けた。


 2回表は無得点で終わり、その裏は五香投手がツーランホームランを浴びたものの後続を断ち切り、1対2で3回表を迎えた。


 この回はツーアウトランナー無しから、僕に打順が回ってきた。

 野球はツーアウトから。

 僕が塁に出れば何か起こるかもしれない。

(あくまでもチームに取って良いことですよ。念の為)


 試合の流れは岡山ハイパーズペースなので、ここは例え凡退しても簡単に終わってはいけない。


 さあいらっしゃい。

 また粘って差し上げるわ。

 そんな事を考えながら、僕は打席でバットをクルクルと回した。


 すると初球。

 ど真ん中にチェンジアップがきた。

 普段なら初球は手を出さないが、ついバットが出てしまった。


 ボールは止めたバットに当たり、力なくサードに転がっている。

 仕方なく僕は一塁に走り出した。

 必死に走ればワンチャンあるかも。


 サードの本田選手が素手で拾い、投げてくるのが横目で見えた。

 「バーン」

 一塁を踏む直前、頭に強い衝撃を受けた。

 何だ何だ?


 ふと見るとボールがファールゾーンに転がっている。

 どうやら、送球が僕のヘルメットに当たったようだ。

 僕はそれを見て二塁に向かい、横目で見ると三塁にも行けそうだ。


 三塁コーチャーも腕を回している。

 ようし。

 僕はスピードを落とさず、三塁に向かった。


 するとボールを拾い上げたファーストの倉田選手が送球してきた。

 僕は懸命に足から滑り込んだ。


 すると送球はワンバウンドし、サードの本田選手が送球を後ろに反らしている。

 僕はすかさず起き上がり、ホームに向かって一目散に走り出した。

 カバーに入ったレフトのロドリゲス選手からの送球が来たが、滑り込んでセーフ。

 同点に追いついた。


 あれ、これってもしかしてランニングホームラン?

 ふと、大型ビジョンを見ると、ヒットの青ランプとエラーの赤ランプが灯っている。


 チッ。

 ワンヒット、ツーエラーか…。

 でも結果としては2打数2安打。

 結果良ければ全て良しという諺もあるし、良かったのではないでしょうか。

(すみません、不勉強なのかそんな言葉は知りません。

 終わり良ければ全て良し、という言葉なら知っていますが…。作者より)


 ということで五香投手の失態を、同学年の僕が取り戻してあげた。

 さぞかし彼は僕に感謝していることだろう。


「お前、バカヅキだな。

 運を使い果たして、帰り道に事故にでも遭うんじゃねぇの」

 ベンチですれ違う時、五香投手に言われた。

 貴様、同点に追いついて差し上げた恩人に向かって…。 


 更にこの回、当たれば飛ぶけど滅多に当たらない、打率は宝くじの5等が当たる確率並…、という岡谷選手に何とホームランが生まれた。

 

 これは打たれた方が運が無かった。

 振ったバットにたまたまボールが当たってしまったのだろう。

 まあ飼い猫に引っ掻かれたとでも思って切り替えて下さい。

 僕は心の中で井本投手に敵ながらエールを送った。


 

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