ドラフト7位で入団して

第22話 飯島投手対泉州ブラックス打線

　飯島投手は、社会人、アメリカのマイナーリーグ、独立リーグを経て、僕と同じ年にドラフト６位で入団した。

　アンダースローの右投げの投手であり、球速はないが、コントロールと打者のタイミングをはずして、打ち取ることを持ち味にしている。

　高校、大学では本格派だったが、試行錯誤して今のスタイルに行き着いたということだ。

　プロ入り初先発の飯島投手は１回の表、先頭バッターの岸選手にいきなりジャストミートされたが、センターが背走し好捕した。

　二番打者の額賀選手はフルカウントからセカンドライナー、三番の黒沢選手はレフトライナーに打ち取り、見事初回を0点に抑えた。

「うーん、結構捉えられているな。」と原谷さん。

　確かにいずれも当たりとしては悪くなかった。

　野手の正面に打球が飛んだ幸運に恵まれた。

　とは言え、初回を0点で抑えられたのは大きい。

　これで波に乗れれば良いが。

　１回の裏、珍しく静岡オーシャンズの打線が奮起し、新井選手の先頭打者ホームラン等で３点を先取した。

　そしてその裏、相手は４番で現在、リーグホームラン１位の強打者、岡村選手である。

　岡村選手は左打ちである。

　初球は慎重に内角のボール球から入り、岡村選手は見送った。

　次は外角一杯へのカーブ。

　審判の腕が上がった。

　ギリギリ、ストライクゾーンに入ったようだ。

　ワンエンドワンからの３球目は真ん中高めへのストレート。

　一歩間違えれば、ホームランボールだが、岡村選手の打球はファールゾーンに飛び込んだ。

　悔しそうな顔を見ると、やっぱりホームランボールだったのだろう。

　とにかくこれで追い込んだ。

　その次の球はスライダーがど真ん中に入ってしまった。

　だが勝負球で、まさかそんな絶好球が来るとは思っていなかったのだろう。

　岡村選手は思わず見送ってしまった。

　見逃しの三振である。

「良いバッターって、こういう事ってあるんだよな。

　あまりに良い球過ぎて、驚いて手がでないってこと」と原谷さんが言った。

　谷口も無言で頷いた。

　これでワンアウト取れたのは大きい。

　だが次の5番、指名打者のブランドン選手には初球、甘く入った真ん中高めのストレートをレフトにホームランを打たれた。

　やはり球が軽い分、コントロールを間違えるとスタンドまで持って行かれる。

　これで３対１、リードは２点に変わった。

　鈴木捕手がマウンドにかけより、何か話していた。

「こういう時って、何て声をかけるんですか」と原谷さんに聞いた。

「そうだな。相手にもよるが、切り替えていこう、とか次のバッターも初球注意とかかな。」

　珍しく三田村は余計な事を言わず、テレビ画面をジッと見ている。やればできるじゃん。

　次の６番水谷選手には初球は外角低めのボール球から入り、２球目は同じく外角低めだが、ストライクゾーンギリギリに入った。

　この辺のコントロールはさすがだ。

　そして３球目の、真ん中高めのボール球に手を出してくれて、センターフライに打ち取った。

　次の７番今中選手にはワンエンドツーからのカーブでショートゴロを打たせ、この回は１失点で切り抜けた。

　２回の裏の静岡オーシャンズの攻撃は三者凡退に終わり、３回の表はヒット１本は打たれたものの一番の岸選手をダブルプレーに打ち取り、結果打者３人、無失点で切り抜けた。

「よし、３回１失点なら上出来だ」と原谷さん。

　だが問題は打者が一巡して慣れてきてからである。

　３回の裏、静岡オーシャンズ打線は相手のエラーもあり、何と６点を取り、試合は９対１となった。

　飯島投手は凄い幸運に恵まれているかもしれない。

　このまま5回まで投げきれば、勝ち投手だ。

　4回の表、ツーアウトから四番の岡村選手にツーベースヒットを許し、先ほどホームランを打たれた五番のブランドン選手を迎えた。

　飯島投手は慎重になり過ぎたのか、ストライクゾーンギリギリを攻めるも、僅かに３球連続で外れ、スリーボールとなった。

　ここまで飯島投手はフォアボールを出していない。

　そして4球目は内角低めのスライダーだったが、ブランドン選手はゴルフスイングのように振り抜いた。

　打球はまたしてもレフトスタンドに飛び込んだ。

　これで9対3である。

　津田沼ピッチングコーチが出てきてマウンドに内野手が集まった。ピッチャー交代か。

　僕らは固唾を飲んで、テレビ画面を見守った。

　しかし、やがて輪がほどけた。続投のようだ。

　飯島投手は空を見上げ、一息ついた。

　次の６番水谷選手にはカーブ二つでファールを打たせ、すぐに追い込み、次はセオリーでは一球外すものだが、外角低めへのスライダーで見送りの三振を奪った。

　ここまで４回３失点。

　ブランドン選手の２本のホームランによる失点だ。

「うーん。何とか次の５回抑えて欲しいな。」と原谷さん。

　恐らく５回まで投げきって降板だろう。

　もし５回３失点なら次のチャンスもあるかもしれない。

　４回の裏の静岡オーシャンズの攻撃は無得点に終わり、いよいよ５回の表を迎えた。

　何とかこの回を無失点で切り抜けて欲しい。

　僕らは祈るような気持ちで、テレビ画面を見ていた。