第553話 まだまだあきらめない

 5点を返し、まだワンアウト三塁。

 だがここはドイル投手が踏ん張り、続く武田捕手、そして代打の今泉選手は三振に倒れた。


 とは言え、この回5点を返した。

 点差もまだ3点。

 まだまだ諦めない。

 しかも次の回は僕からの打順だ。


 そして7回表。

 マウンドには引き続き、イニングイーター兼敗戦処理の五香投手が上がった。


 五香投手は大胆な投球を披露し、ファン(京阪ジャガーズファン)の期待に応え、この回を2失点で切り抜けた。


 これでスコアは11対6。

 でも大丈夫。

 まだ攻撃のチャンスは3回も残っている。

 各イニング2点ずつを取れば、逆転できる。


 7回裏、僕からの打順だ。

 何としても塁に出たいところだ。

 

「高橋、わかっているよな?」

 バッターボックスに向かおうとすると、麻生コーチに声をかけられた。

 

「モチのロンですよ。

 まあ黙ってベンチに座ってみていてください」

「ほう、わかった。

 オールスター選出の名選手のバッティング。期待して見ているぞ」


 ということで僕はゆっくりとバッターボックスに入った。

 この回から京阪ジャガーズのマウンドには、ルーキーの竜崎投手が上がっている。

 

 明民書房の選手名鑑によると、昨秋のドラフトで2位指名を受けて、入団した期待の大卒右腕とのことだ。

 ちなみに趣味は小松右京や星旧一等のSM小説を読むことらしい。

 MとFの間違いだとは思うが、一文字違うと印象が全く異なる。

 誤字には気を付けて頂きたいものだ。

 

 選手名鑑によると竜崎投手は、身長189mの長身から投げ下ろす直球が武器とのことである。

 確かにそんな高さから投げ下ろされたら、とても打つことはできないだろう。

 そもそもそんな身長なら、どさんこドームの屋根を突き破るが…。

 明民書房は出版前にちゃんと校閲しているのだろうか…。


 それはさておき、対峙した竜崎投手は顔つきもごつく、新人らしからぬ威圧感がある。

 投球練習を見ていても、重そうな球質だ。


 初球。

 真ん中低めへのストレート。

 見送ったがストライク。

 球速表示は153km/h。

 体感的にはもっと速く感じる。


 2球目。

 外角へのツーシーム。

 これも外れていると思ったが、やはりストライク。

 微妙に変化して、ストライクゾーンに入ってきた。

 確かに良いピッチャーだ。


 3球目。

 外角へのカットボール。

 これは外れた。

 カウントはワンボール、ツーストライク。


 4球目。

 内角高めへのストレート。

 ファールで逃げた。


 そして5球目。

 スプリット。

 見送ってボール。

 ツーボール、ツーストライクの並行カウントに持ち込んだ。


 6球目。

 外角へのチェンジアップ。

 裏を書かれたが、ファールで逃げた。

 もちろん今の球は撒き餌である。

 遅い球を見せておくことで、次の速球をより速く見せるのだ。


 7球目。

 またしても外角へのチェンジアップ。

 ここはセオリーなら速い球が来る場面だ。

 裏をかかれた…。

 僕が天の邪鬼でなければね。


 僕は踏みこんで、ライト方向に打ち返した。

 打球はライナーでライト線上に落ちた。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。

 

 横目で見ると、まだライトの向田選手が打球に追いついたところだ。

 僕はスピードを落とさず、二塁を蹴って三塁に向かった。

 送球が来たが、僕が三塁に滑り込む方が一瞬早かった。

 

 スリーベースヒット。

 最高の結果となった。

 5点差があるこの場面では、ホームランよりもランナーをためていくことが重要である。


 次は三振が多いが、長打力のある岡谷選手。

 札幌ホワイトベアーズベンチは代打に、球団非公認組織であるジミーズのメンバーの1人、西野選手を送った。

 ここはランナーをためていきたい場面であり、打率はあまり高くないものの、粘り強い西野選手の方が、長打力のある岡谷選手よりも相応しいと判断したのだろう。


 そして西野選手は嫌らしく粘り、ノーボール、ツーストライクからフルカウントに持ち込み、結局フォアボールを勝ち取った。

 これでノーアウト一、三塁。


 バッターはチャンスの時だけ本気を出す、3番の下山選手。

(本人にそう言うと、「俺はいつでも本気だ」と怒り狂うが、数字は嘘をつかない)


 さあこの回は最低2点を取りたい。

 僕はリードを取った。

 

 

 


 

 

 

 


 

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