第249話 粘れ、エース
ノーアウト満塁の大ピンチでも、児島投手は眉一つ動かさない。
泉州ブラックスのエースとして、百戦錬磨の経験がある。
経験の浅いピッチャーは1点も許さないと気張り、逆に大量失点をしてしまうものだが、児島投手は慌てず、一人ひとり打ち取れば良いと考えているのだろう。
中京パールスの打順は1番に帰って、熊野選手。
粘っこく簡単に三振をしないバッターだ。
更に俊足で今シーズン一度も併殺打を打ったことが無い。
ここは三振か、内野フライを打たせたいところだ。
泉州ブラックスの内野陣はバックホーム体制。
通常なら1点は仕方ないとして、ダブルプレーシフトを敷く場面だが、バッターが俊足なのでダブルプレーは取りづらいため、一か八かだ。
初球。
外角低めギリギリへのスプリット。
熊野選手は見送ったが、ストライク。
素晴らしいコントロールだ。
2球目。
今度は内角高め一杯へのカットボール。
熊野選手はファールにした。
これでノーボール、ツーストライクと追い込んだ。
3球目は外角低めへのスプリット。
素晴らしいコントロールだが、見送ってボール。
わずかに外れていた。
4球目。
内角低めへのストレート。
差し込まれながらも、熊野選手はファールで逃げた。
この辺のバットコントロールは流石だ。
5球目。
外角低めへ一杯へのカーブ。
タイミングを外されてもファールで逃げた。
カウントはワンボール、ツーストライクのまま。
6球目。
内角低めへのスプリット。
これも難しい球だが、ファール。
7球目は外角低めへのストレート。
見送ってボール。
これで並行カウントのツーボール、ツーストライク。
8球目。
何と外角低めへのカーブ。
これも見送ってボール。
ほんのわずかに外れていたか。
これで、スリーボール、ツーストライクのフルカウント。
さすがの児島投手も追い込まれたか。
9球目。
真ん中低めへのスプリット。
熊野選手はうまく捉えた。
打球はセンター前に飛んでいる。
岸選手が懸命にダッシュしてきたが、無常にも打球はそのわずか前に落ちた。
1人が生還して、2対1。
しかもまだノーアウト満塁。
次の2番の小田選手は俊足な上に長打力もあり、厳しい場面が続く。
僕ら内野陣はマウンドに集った。
「こうなったら、次はど真ん中に投げるから、守ってくれよ。頼んだぞ」
児島投手は僕らを見渡して言った。
こうなると開き直りも大事である。
児島投手の凄いところは球威を落とさず、コントロール良く投げられるところである。
ど真ん中に投げたとしても、微妙に変化するので、捉えるのは容易ではない。
小田選手への初球。
児島投手は宣言通り、腕を振って、ど真ん中へストレートを投げ込んだ。
小田選手は見送った。
2球目。
外角低めへのスプリット。
小田選手は空振りした。
3球目。
外角低めへのカーブ。
これは見送ってボール。
そして4球目。
内角高めへのストレート。
小田選手のバットは空を切った。
見事に空振りの三振を奪った。
これでようやくワンアウト。
だがバッターは3番の長島選手。
引き続きピンチは続く。
長島選手が左打席に入った。
初球。
ど真ん中へのストレート。
長島選手は強振した。
だが微妙に変化したのだろう。
バットはボールの上っ面に当たり、ピッチャーゴロ。
児島投手はホームに送球し、これでツーアウト。
そして高台捕手が一塁に送球し、スリーアウト。
このピンチでど真ん中に腕を振って投げきる度胸。
これこそが児島投手の凄さだろう。
大ピンチを抑えた児島投手はさすがにホッとした表情でマウンドを降りた。
この回、良く1点で済んだものだ。
さすがエース。よく粘った。
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