第528話 ピンチとチャンスと
先制点を上げたが、今日の札幌ホワイトベアーズの先発の稲本投手はピリッとしない。
いきなりフォアボール2つで、ノーアウト一、二塁のピンチを背負ってしまった。
そして続く3番打者は黒沢選手である。
稲本投手は慎重になりすぎたか、スリーボール、ノーストライクとしてしまった。
武田捕手がタイムを取り、僕らはマウンドに集まった。
「どうした、どうした。
まだ初回だぞ。
例え打たれても取り返せば良い。
思い切って腕を振れ」
武田捕手が、稲本投手を激励した。
「はい、頼りになるバックに任せます。
打たせていくから、頼みますよ」
「了解」
「OK」
「任せて下さい」
「合点承知」
「やつぱりショート以外に打たせないとダメか…」
稲本投手は頭を垂れた。
それはどういう意味でしょうか。
今度、じっくりと教えてください。
輪が解け、守備位置に戻った。
さあ打ってこい。
そしてストライクを一球挟んでの5球目。
稲本投手のスクリューボールを捉えた鋭い打球がサードを襲った。
だがさすがは道岡選手。
冷静にワンバウンドでバックハンドで捕球して、そのままベースを踏み、一塁に送球した。
見事なダブルプレー。
セカンドもアウトならトリプルプレーだっただろうが、間に合わないと判断したのだろう。
トリプルプレーなんてめったにお目にかかれるものではない。
ツーアウト二塁となり、バッターは4番のブランドン選手。
得意のスクリューボールで、セカンドゴロに打ち取り、初回を無失点で切り抜けた。
2回表裏は両チームともランナーは出したものの無得点に終わり、試合は1対0のまま、3回表を迎えた。
この回は先頭に戻って、僕からの打順だ。
初回の対戦で追い込まれたら、非常に厳しいことがわかった。
だから追い込まれる前に勝負をしたい。
初球。
外角への低めへのスライダー。
手が出そうになったが、何とかバットを止めた。
打ってもせいぜいセカンドゴロだろう。
判定はストライク。
コースギリギリに決まったようだ。
2球目。
真ん中高めへのストレート。
凄い球の伸びだ。
そして打つならこの球だ。
僕はボールの上を叩くようなイメージでバットを振り抜いた。
速い球にはそれくらいの意識を持っていたほうが対応できる。
火の出るような鋭い打球がピッチャー方向に飛んでいる。
バットの真芯に当たった。
打球はピッチャーの横を通り、きれいに二遊間を抜けた。
センター前ヒットだ。
僕は悠々一塁に到達した。
キャッチャーの原谷さんは僕の方を向いて、「チッ」と舌打ちするように、少し口元を歪めた。
これでノーアウト一塁。
もう1点取って、試合を優位に進めたいところだ。
2番の湯川選手は送りバントの構えをしている。
ランナーはスピードスターなので、盗塁も考えられるし、湯川選手はバスターエンドランも得意だ。
相手バッテリーにとって、プレッシャーのかかる場面だろう。
原谷捕手は顔と頭と性格と意地は悪いが、肩は強い。
当然ここは盗塁を警戒しているので、いくらスピードスターと言えど、その中で決めるのは至難の技である。
初球。
投球と同時にスタートを切った。
原谷さんから素晴らしい送球が来た。
僕が二塁ベースに滑り込むのと、つま先へのタッチは同時に感じた。
どうだ、判定は?
「セーフ」
やったぜ。
僕は大きくガッツポーズした。
だが静岡オーシャンズは当然リクエストをした。
バックスクリーンの大型ビジョンで色々な角度からリプレー映像が流れている。
僕はセカンドベース上から、それを見ていた。
うーん、セーフかな。
どの角度から見ても、タイミング的に同時に見えるので、アウトと判断できるはっきりした映像がない限り、判定は覆らないだろう。
結構早く審判団が出てきた。
「セーフ」
よしよし。
これで盗塁数は18個目となり、トップと1差。
射程圏内に捕らえた。
これでノーアウト二塁。
先程の投球はボール。
湯川選手はバットを引いていた。
2球目。
湯川選手はバントの構えをしている。
さあどうする?
そのままバントして、ワンアウト三塁にしても良いし、バスターエンドランも面白い。
僕は二塁ベース上で、ベンチのサインを確認した。
ふむふむ、なるほどね。
僕は大きくリードをとった。
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