第364話 大チャンスとベンチのサインについて

 7回裏のラッキーセブンの攻撃は、7番の光村選手からだ。

 光村選手はルーキーとは言え、大卒社会人経由のため、僕と同学年。

 結果が求められる立場だ。


 この回から京阪ジャガーズのマウンドは、セットアッパーの造田投手。

 京阪ジャガーズの盤石のリリーフ陣で、逃げ切りを図るという算段だろう。


 光村選手は粘りに粘り、9球投げさせ、フォアボールを選んだ。

 ノーアウトのランナー。

 値千金の働きだ。

 ここで代走として、俊足の野中選手が送られた。

 貴重な同点のランナーだ。


 そして武田捕手が送りバント

を決め、打順は9番の鬼頭投手。

 代打として、今日スタメン落ちのロイトン選手が告げられた。

 ロイトン選手は、バットを高く掲げ、何か独り言を言ってから、バッターボックスに入った。

 かなり気合が入っているのが見て取れる。


 ロイトン選手は1年契約。

 ここまで打率.263、ホームラン9本と外国人選手としてはやや物足りない数字である。

 内野も外野も守れるというアドバンテージはあるものの、ダンカン選手と比べるとやや小粒である印象は拭えない。


 ロイトン選手はファール2球で追い込まれたが、そこから粘り、フルカウントまで持ち込んだ。

 そして決め球のフォークに対し、バットを折りながらも食らいつき、レフト前に落とした。

 これでワンアウト一、三塁。

 同点の大チャンスだ。


 ここで迎えるバッターは、俊足イケメンで、オールスターMVPを獲得し、ショートストップを守るチーム屈指の人気選手。

(作者注:あくまでも自称です)

 否が応でも、球場のボルテージは上がる。


 僕は登場曲を聞きながら、屈伸し、ゆっくりとバッターボックスに入った。

 内野ゴロでも1点が入る場面だが、相手はリーグ屈指のセットアッパー。

 ここは三振を取りに来るだろう。


 えーと、ベンチのサインは?

 スクイズ…?

 ちょっと待てよ…。

 ここは相手も警戒してくるだろう。

 そんな見え見えの作戦をここで取らなくても…。


 僕はファーストとサードの守備位置を見た。

 明らかにスクイズ警戒だ。

 僕はサインを変えることを期待しながら、ベンチを見た。


 動きはない。

 サインに変更は無いようだ。

 ただでさえ、造田投手の球は荒れ球である。

 スクイズはとてもやりづらい。


 初球。

 外角低めに逃げていくスライダー。

 僕は必死に飛びついた。

 だがバットに当たらなかった。

 ヤバい。

 サードランナーが刺される。

  

 あれ?

 だが三塁ランナーはスタートを切っていない。

 一塁ランナーもそのままだ。


 もしかしてサインミスをしたか?

 まあ結果オーライ。


 2球目の前にベンチのサインを見た。

 またもやスクイズ。

 嘘でしょ。嘘に違いない。

 お願い、嘘だと言って。


 僕は三塁コーチャーにサインを確認する合図を送った。

 だが、やはりスクイズのようだ。


 僕は開き直った。

 こうなったら、失敗しても僕のせいじゃないもーん。

 失敗して試合に負けたら、ベンチがアホやから負けたと記者の方々に言いふらしてやる。


 2球目。

 今度はキャッチャーが立ち上がり、外角に大きく外してきた。

 完全に読まれていた…。


 僕は必死にバットを伸ばした。

 何とかバットに当てた。

 ファール。

 良かったー。


 今度はスタートを切っていた、三塁ランナーの野中選手も塁に戻った。


 僕はベンチのサインを見た。

 サインは「自由に打て」。

 またスクイズのサインが出たら、どうしょうかと思った。


 でもツーストライクと追い込まれている。

 造田投手にはフォークがある。

 三振だけはしたくない場面だが…。

 

 


 

  


 

 

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