第504話 投手版、高橋隆介?

 横田投手はセットポジションをしながら、振り向いて僕の方を見ている。


 バッターは3番の道岡選手であり、試合もまだ1回なので、ここは流石にスクイズはない。

 僕も一応ベンチのサインを確認したが、サインはもちろん「打て」。


 道岡選手は2球でツーストライクと追い込まれたが、そこからが本領発揮である。

 ファールで粘って、フルカウントまで持ち込み、10球目をセンターに打ち上げた。

 平凡な外野フライではあるが、犠牲フライには十分な飛距離である。

 

 僕はセンターの鈴木選手が捕球するのをきっちりと確認し、スタートを切った。

 もちろん悠々セーフ。

 今季初得点。


 続く4番のダンカン選手にもソロホームランが飛び出し、続く下山選手は凡退したものの、札幌ホワイトベアーズは幸先よく2点を先制した。


 いきなり今シーズン初ヒットを打ったし、盗塁も決めたし、絶好のスタートを切れた。

 さあ次は守備だ。

 超満員の中、試合できる喜びを噛み締めながら、僕はショートの定位置に向かった。


 マウンドの青村投手を見た。

 調子良さそうだ。

 青村投手は昨シーズン中に、国内フリーエージェントの資格を得たが、行使しなかった。

 だが複数年契約の打診を断り、単年契約を締結した。

 つまり今シーズンオフの大リーグ挑戦を視野に入れているのだろう。


 青村投手は今シーズン13年目だが、年齢は開幕時点では31歳である。

 僕と同じドラフト7位で、高卒で入団し、プロ4年目にようやく一軍のマウンドに立ち、毎年力をつけ、今や球界を代表する投手になった。

 そういう意味では投手版、高橋隆介である。

(多分、青村投手がそれを聞いたら、「一緒にするな」と怒ると思いますよ。作者より)


 この回、青村投手は川崎ライツの4番からの三人を三者連続三振に切って取った。

 開幕戦とあって、かなり気合が入っているようだ。

 

「大リーグ挑戦か…」

 ベンチに戻り、タオルで汗を拭きながら考えた。

 もし僕が万が一大リーグに挑戦するとしたら、何歳だろう。


 国内フリーエージェントの資格取得まで、残り3年位だから、4年か…。

 その時には32歳。

 行くならポスティングかな。

 ふと、そんな事を思った。


 2回裏は6番の谷口からであったが、三者凡退に終わった。

 ちなみに谷口の今季初打席は空振りの三振だった。


 3回表はワンアウトから、8番キャッチャーの倉重選手にシングルヒットを打たれたものの、青村投手は無失点に抑えた。


 次は9番の青村投手からの打順なので、僕に打席が回る。

 僕はベンチに戻って、グラブを置くと、ヘルメットを被って、バッターボックスに向かった。


 青村投手は報道によると、今シーズン単年3.7億円で契約を結んだようだ。

 もし大リーグに挑戦すると、山崎レベル(7年約一億ドル)の契約を締結するのでは、と言われている。


 もし僕がポスティングで大リーグに挑戦したら、どのくらいの契約になるだろうか。

 良くて7年一億円くらいか…。

 多分、結衣が許してくれないだろうな。

 そんな事を考えていると、青村投手は何とレフト線にツーベースヒットを放った。

 青村投手はバッティングも得意なのだ。


 これでノーアウト二塁。

 僕は打席に入る前に、ベンチのサインを見た。


 サインは「右に進塁打を打て」だった。

 ヒットを打つに越したことはないが、役割を果たすことも大事である。


 ツーボール、ワンストライクからの4球目。

 僕は一二塁間に打ち返した。

 セカンドゴロになったが、ランナーの青村投手は三塁に進んだ。


 年俸の査定では、このようなチームバッティングはプラス評価となる。

 チームに期待される役割を、一つ一つ確実にこなしていくこと。

 地味だが、これをできるかできないかが、一軍の戦力になれるかなれないかの違いなのだ。


 これでワンアウト三塁。

 バッターは2番の湯川選手。

 打点を挙げる絶好のチャンスだったが、横田投手のスプリットに空振り三振に倒れてしまった。


 ツーアウト三塁となり、バッターは道岡選手。

 ワンボール、ツーストライクと追い込まれながら、決め球のスプリットをしぶとく一二塁間に打ち返した。

 打球は見事にライト前に抜け、青村投手はホームインした。

 これで3対0。

 今年も札幌ホワイトベアーズは強い。

 そう感じさせる、この回の攻撃だった。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

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