第312話 ノーガードの打ち合い?

 幸先良く1回表に3点を先制し、有利に試合を進められる…と思いきや、そうは問屋は卸さなかった。


 その裏、須藤投手はフォアボールとヒットでノーアウト一、三塁のピンチを背負い、3番の黒沢選手に同点のスリーランホームランを浴びてしまったのだ。


 なんて試合だ。

 まるでノーガードの打ち合い。

 1回表裏の攻防で、それぞれ3点ずつを取り合ったことになる。


 2回表は7番の西野選手からの攻撃だ。

 静岡オーシャンズのマウンドは引き続き、田部投手。

 流れを再び引き戻すためにも、先頭バッターに出塁してもらいたいところだ。


 西野選手はフルカウントまで粘った後、フォアボールを選んだ。

 さすが相手の嫌がることを良く分かっている。


 8番の武田捕手は送りバントを成功させ、9番は野中選手だったが三振した。


 そしてツーアウト二塁のチャンスで、迎えるバッターは本日先頭打者ホームランを放った、1番打者。つまり僕である。


 初球。

 ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるスライダー。

 見逃したが、ストライク。

 しかも低目に決まり、打っても内野ゴロだろう。


 2球目。

 外角へのスクリューボール。

 さっきはうまく打てたが、今度は空振り。

 ノーボール、ツーストライク。簡単に追い込まれた。


 僕は一度打席を外した。

 次も外角か、一球内角を見せてくるか。


 3球目。

 内角へのストレート。

 見送って、ボール。

 カウントはワンボール、ツーストライクとなった。


 4球目。

 ど真ん中から内角に食込んでくる、スライダー。

 辛うじてバットに当てた。

 ファール。


 5球目。

 外角へのスクリューボール。

 僕はうまくバットに乗せた。

 右打ち、そして軽打を意識したのだ。


 打球はセカンドの頭を越えて、ライト前に落ちた。

 ツーアウトなので、二塁ランナーの西野選手はスタートを切っており、ホームインした。

 これで4対3と勝ち越した。

 これで僕は2打数2安打で打点2。


 次の谷口は初球のスライダーを捉えたものの、レフトフライでチェンジ。

 僕は声援に帽子を取って応えながら、ショートの守備位置についた。


 1点を勝ち越したが、須藤投手はピリッとしない。

 何と8番の重本捕手に同点ホームランを打たれた。

 これで4対4。

 うーん、皆さん期待の僕のヒーローインタビューが遠のいていく…。


 3回表は3番の道岡選手からの打順であったが、この試合初めて三者凡退に終わった。


 そして3回裏、須藤投手も踏ん張り、ランナーは1人出したもののこの試合初めて無失点に抑えた。


 そして4回表の攻撃も三者凡退に終わり、ようやく試合が落ち着くかと思いきや、その裏、須藤投手はヒットとフォアボールでノーアウト満塁のピンチを背負ってしまった。


 ここで札幌ホワイトベアーズベンチは、須藤投手を諦め、マウンドに大磯投手を送った。

 大磯投手は入団5年目であるが、大卒、社会人経由のため、すでに年齢は29歳となっており、結果が求められる立場である。


 静岡オーシャンズの1番の高橋孝司選手である。

 僕と同姓であり、かってはスコアボードには高橋孝と表示されていたが、今は高橋とだけ表示されている。


 大磯投手は一球ごとに気合を表に出し、高橋選手をツーボール、ツーストライクからフォークボールで三振を奪った。

 その瞬間、吠えたがまだワンアウト。

 ピンチは続く。


 次は2番の吉川選手。

 僕が人的補償で移籍した年に、ドラフト3位で指名された選手であり、一緒にプレーした経験は無い。

 内野も外野も守れるユーティリティプレイヤーであり、パンチ力もある。

 もし僕があのまま静岡オーシャンズに残っていたら、強力なライバルになっていただろう。

 ちなみに今日はレフトを守っている。


 そしてツーボール、ワンストライクからの4球目。

 捉えた打球が三遊間に飛んできた。

 滑り込むようにワンバウンドで捕球し、くるっと回転して、セカンドのロイトン選手に送球した。

 フォースアウト。

 そしてロイトン選手は一塁に転送し、見事ダブルプレー成立。

 

 大磯投手は両手で、ガッツポーズして吠えた。

 これだけ感情を露わにする投手も珍しいが、それくらい気合が入っていたのだろう。


 しかし我ながら良い守備だった。

 もしあのまま静岡オーシャンズに残っていたら、果たして今のようにレギュラー格になれただろうか。

 ベンチに戻りながらそう思った。


 セカンドは黒沢さんが君臨しているし、ショートは新井選手がレギュラーを確立している。

 内野手として入団した吉川選手が外野を守っているくらいだから、僕はせいぜい代走くらいしか出場がなかったかもしれない。

 そう考えると、人的補償による移籍は僕にとっても大きなプラスだったと思う。

 

 

 

 

 

 

 


 

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