第353話 ドリームゲーム?

 オールスターも9回裏ツーアウト、佳境を迎えたということで、球場内のボルテージも上がっているように感じる。


 打席に入ると、りゅうすけコールがあり、僕の応援歌、つまり「蒼き旋風、高橋隆介」が流れる。

 これは泉州ブラックスの私設応援団の方が、札幌ホワイトベアーズの応援団の方に譲り渡してくれたものである。


 初めて札幌ホワイトベアーズのどさんこスタジアムでこの歌が流れた時、涙が出そうになるくらい嬉しかった。

 泉州ブラックス、そして札幌ホワイトベアーズのファンの方々の心意気に感謝している。


 さて都沢投手のストレートもフォークも強力なので、どちらかに的を絞らないと、前に弾き返す事はできないだろう。

 どっちの球を狙うか。


 追い込まれてからのフォークは打てる気がしない。

 となるとストレートか。

 でも裏をかいて、初球からフォークを投げてくる可能性もある。


 初球。

 やはり真ん中からボールゾーンに変化するフォークだ。

 フォークを意識していた分、バットが止まった。

 ボールワン。


 2球目。

 外角へのストレート。

 ストライクゾーンぎりぎりに決まった。

 これは手が出ない。

 素晴らしいコースに決まった。

 カウントはワンボール、ワンストライク。


 次は内角に来る。

 僕はそう読んだ。


 そして3球目。

 内角高めから落ちるフォーク。

 見逃してボール。

 これでツーボール、ワンストライク。

 バッティングカウントになった。


 そして4球目。

 外角へのストレート。

 僕は踏み込み、右方向に打ち返した。

 打球はフラフラとセカンドとライトの間に飛んでいる。

 当たりはあまり良くないが、面白いところに飛んだ。


 セカンドの黒沢選手は打球を追うのをライトの小田選手に任せた。

 小田選手が懸命に突っ込んできている。

 落ちてくれ。頼む。


 小田選手は前向きにダイビングした。

 そして打球はグラブの僅か手前で弾んた。

 やった、ヒットだ。


 僕は一塁手前でそれを確認した。

 自然にガッツポーズが出た。


 だが更に予想外の事が起こった。

 打球は、大きく弾んで、小田選手の体を越して、転々としている。


 これは長打コースだ。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。


 二塁に到達する前に、横目で打球の行方を見ると、ボールはファールゾーンに達し、センターの浮田選手が追いかけている。


 三塁コーチャーを見ると、腕を回している。

 これは三塁に行けるかも。

 僕は二塁を蹴って、三塁に向かった。


 そして三塁に到達する前、まだ三塁コーチャーは腕を回している。

 ホンマかいな。

 どうせ、オールスターだ。

 アウトになっても笑って済む。

 僕は三塁を蹴って、ホームに突っ込んだ。


 そして送球が返ってきた。

 タイミングは微妙だ。

 僕は回り込むようにして、足から滑り込んだ。

 判定は?

「セーフ」


 シーリーグの選手たちがベンチを飛び出してきた。

 サヨナラ勝利だ。


 僕はホームベース付近で殴る蹴るの暴行を受けた。

 痛いけど痛くない。


 ふとスコアボードを見た。

 エラーの赤ランプがついていない。

 ということは?

 

「逆転サヨナラ満塁ランニングホームランか」

 道岡選手が呟いた。

 え?

 ホームラン?


 オーロラビジョンにそのシーンが映し出されている。

 小田選手がダイビングして、打球を後逸した後、打球はその足に当たり、ファールゾーンに転がった。


 それをセンターの浮田選手が取りにいったが、フェンスに当たってバウンドが変わり、浮田選手がその処理に手間取った。


 ようやく拾い上げた時には、僕は三塁付近に到達していた。

 それを見て三塁コーチャーが腕を回し、僕はホームに突っ込んだというわけだ。


 つまり一連のプレーにエラーは無いという判断だ。

 記録はセカンドオーバーホームランまたはライト前ホームランということか?

 しかも4打点がついた。


 こんなことがあるのだろうか。

 夢じゃないだろうか。

 僕は頬をつねった。

 あまり痛くない。

 やはり夢か。

 夢なら覚めないで欲しい。

 

 もっとも僕がプロでレギュラーを取って、オールスターに出ること自体、夢みたいだ。

 まさかこの話自体、夢オチにならないだろうな…。


 

 

 

 

  


 

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