第308話 止まらない、止まれない?

 早い、早い!

 でも、気持ちが悪い~!

滑り台のように、滑り降りながら、

(ジュンペイたちも、もう下にいるのかなぁ)

ふと思う。

捕まるところなどないので、胸に手をあてて、身体をまっすぐにして、

滑り降りて行く。

(これって、何の滑り台?非常用?)

裕太の頭の中で、疑問がかすめる。

うわぁ~!

歓声を上げて、とにかく身をまかせる。

(まるでウォータースライダーみたいだ!)

のん気に、そんなことを考える。

 だが、待てよ!

 あの音は、なんだ?

確かに…機械の音が、強くなってきているようだ。

 ミキサー車なのか?

 それとも・・・

騒音の中から、ジャックの声が聞こえる

「なに?」

騒音が大きすぎて、何を言っているのか、よく聞こえない。

「だからぁ~気をつけろよぉ!

 終点まで行ったら、ダメだぞぉ!」

再度、ジャックの声が響いて来た。


「あのカーブを…曲がった分岐点で、流されないように、

 気をつけろよ」

 音の合間に、かろうじて聞き取れる。

「えっ、なんで?どうしてぇ?」

機械の音が、さらに大きくなるけれど、負けないように喚き返す。

「巨大な、みじん切りに、なるぞぉ」

「えぇ~っ!」

スライダーの向こうに、光がわずかに見える。

あれが…終点なのか?

「いいか?

 あの手前に、網がある。

 あれに、捕まるんだ!」

さらに大きな声で、ジャックが叫ぶ。

あみ?ネット?

あれが?

前方に目をやると…確かに目の粗い、金網のようなものが、確かに

見える。

「ほら!

 あそこの網に、つかまれ!」

いいか、しくじるなよ!

チャンスは、1度きりだ、さもなくば…

ジュンペイの声が、大きく響く。

ヒャア~!!

ゴォ~ッ!!

すぐ目の前まで、鉄さび色の巨大なカッターが、ぐるぐる回って、

迫ってきている。

そうして裕太のすぐ脇を、木の幹や茎やツルなどが、ザクザクと

みじんにカットされて、どこかへ運ばれて行く。

(ボ、ボクも…同じ運命?)

サァ~ッと、血の気が引くのを感じた。

 うわぁ~!

 南無三!

「おい、つかまれ!飛び移るんだ!」

「え~」

「え~じゃない、やるんだ!」

「だって、出来ないよぉ」

「出来るか、出来ないかじゃない!やるんだ、やれ!」

ジュンペイの甲高い声が、ひときわ大きく響く。

裕太は息をのんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る