第83話 水面下で動く人たち…

「何だか この階は、見回りをするのが、気が進まないなぁ~」

 懐中電灯で、辺りを照らしながら、警備員が廊下で靴音を

響かせる。

いつもは1人で、見回りをするのだが、今日は見習いが入る、

というので珍しく2人体制だ。

(ちぇっ、予定が狂ったな。

 1人の方が、気楽なのになぁ)

彼はそう思うのだが、そんなことはオクビにも出さない。


「ここって、見かけによらず、すごい警備ですよね?」

 早速新入りが、嬉しそうに彼に話しかけてくる。

この研究施設のことを、おそらくよく知らないのだろう。

知っていたら、こんな所には、来たがったりはしないだろう。

(知らぬが花というしな)

先輩警備員は、ひそかに心の中でそう思う。


「お前は、知らないだろうが…

 この地下には、特に…

 ネズミ一匹入れるな、と上から言われているんだぜ」

脅かすように言うのだが…

この新入りは、それには気付かないのか、よっぽど心臓が

強いのか、

「ふぅーん、そうなんだぁ」

軽い口調で、スルーする。

(脅かしがいのないヤツだ)

つまらないなぁと、彼はそう思う。

 昼間も確かに、あまり気持ちのいい場所ではないけれど…

こういう施設は、そういうものなのか、よくわからない。

夜はさらに、不気味さが増すのだ。

 特にこの地下は、建物自体が古いせいもあり、余計に闇が

濃く、湿気も感じられる。

迷路のような造りが、さらに異世界への入り口のような雰囲気

さえ、漂うのだ。

 カツンカツンカツンカツン…

やけに靴音が、響いている。

彼は腕時計を確認すると、辺りを見回し…

(よしっ)と心でつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る