サキアの休日…16

「あの時のあなたは、とても痛々しかったわ」

 懐かしそうな瞳で、マリさんはサキアを見つめる。

「まだ…何があったのか、理解していないみたいでね、

 『パパとママは、どこにいるの?

  いつ、帰って来るの?』と言われて、困ったわ」

「そうだったの?」

サキアはそう言うと、見たこともないくらい、優しい顔付きで、

マリさんを見る。

「そうよぉ」

 この二人…

たとえ、血のつながりがなくても、おそらくは、深い絆で結ばれて

いるのだろうなぁ~と思われた。

「私ね、マリさんとこの町に住んで、本当に幸せだったのよ」

あの当時のことを思い出して…思わずサキアはつぶやく。

「ホント?私…あなたのお母さんのように、若くも、きれいでも

 なかったわ」

マリさんは、グッとサキアの手を握り締める。

「そんなの!もう、忘れたわ。

 私にとっては、マリさんがお母さんなんだもの」

サキアはフワッと、マリさんの身体を抱き締める。

「ね、覚えているの?」

マリさんが、サキアを見つめると

「うーん」

サキアは人差し指を、あごにあてて、考え込む。

「おぼろげながら…ね」


 この人は自分のことを、お母さんとは絶対に、呼ばせようとは

しなかった。

サキアの気持ちがしっかりと落ち着くまでは…

まるで、親戚のおばさんのように、ふるまってくれたのだ。

男の人たちの手によって、運ばれていく両親の棺を、呆然と見ていると…

マリさんが、すぅっと傍らに立って、

「サキアちゃん、おばさんのトコで、お茶を飲まない?」

と話しかけたのだった。


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