第64話 飛んで火にいる夏の虫?

 飛び込んだはいいものの…

ふいに、ジュンペイは気が付く。

(あっ、カギが開いていないかも!)

そう頭にひらめいた。

だが…もしかしてと思い、勢いよくドアに取り付く。

(ヤバイ!)

ガチャガチャとノブを回すと、あっけなくドアが開いた。

 カギあけのスペシャリストのマリさんのせいなのか?

だが、ワナ…という可能性もある。

何があるか、わからないのだ。

 それでもマリさんの合図で、スルリと中に、身体を滑り込ませると、

ドアをバタンと閉める。

息をひそめ、じぃっと暗がりに身体をひそませる…

追っ手は気が付かなかったようで、バタバタとドアの外を、

通り過ぎる足音が聞こえてきた…


 真っ暗な部屋の壁に、へたり込んだまま…

ジュンペイは、肩で息をしている。

年長のマリさんはというと、呼吸の乱れ1つ、感じられない。

平然と、じっと闇にしゃがみ込んでいる。

(この人は…何者なんだ?)

 何度目かの疑問が、再びジュンペイの頭をよぎる。

柱の陰にひそんでいた彼女は、ふぅっと息を吐くと、

「大丈夫よ、行ったみたいだわ」

ジュンペイに向けて、親指を立ててみせた。

「この部屋…なんだろう?」

 ゆっくりと身体を動かし、部屋の中に目を走らせる。

シンと静まり返った部屋の中は、やけに薄暗く…

明り取りの窓もなければ、電気もついてはいない。

(スイッチは、どこだ?)

手探りで、壁を探る。

 マリさんの灯りのお陰で、ボゥッと近くだけは見えるけれど、

何がいるのか、

何が起きるのか、まったくわからない。

(もしも、おっかない人とか、動物がいたら、どうしよう?)

なぜなら…人の気配は感じられないけれど、獣のようなにおいが

しているからだ。

さらには、どこからか、鳥やサルなどの声が、ごく近くから

聞こえてきていた…

(もしかして…これって、実験室?

 襲ってきたり、しないよな?)

裕太は、身体を小さく縮めた。

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