第392話 逃げろ!

(せめて、耳栓でもあれば!)

 両耳を手でふさぎながら、裕太はどうにか、ファルコンの

陰に隠れる。

「ほら、早く乗れ!」

いつの間にか、ショーンが裕太の背後にやって来て、その背中を

押す。

ひと足先に、ジュンペイがファルコンの背に飛び乗る。

裕太もあわてて、ファルコンの首につかまろうとする。

「待て!」

ドクターバードの声が、二人を追いかける。

「いいから、早く!」

ショーンがぐぃっと、裕太とジュンペイを押し上げる。

ブン!

ファルコンは大きく胴体をうねらせて、狭い洞窟の中をすり抜ける。

「逃げるな!」

ドクターバードも追いかけようとするのだが…

「今度は、私が相手だ」

立ちふさがるようにして、ショーンが立ちはだかる。

「えっ、ショーン!」

裕太はファルコンにしがみついたまま、首だけを後ろに向けると、

「いいから、先に行け!」

ひと声かけると、にこやかに手を振った。


「置いてきぼりにしても…大丈夫なのか?」

 裕太はショーンのことが、気がかりだ。

「大丈夫なんじゃない?」

だがジュンペイは、さして気にしていない様子で、平然と答える。

 こういうところは、裕太には、理解が出来ない。

「えっ?だって…ショーンが捕まっちゃうよ!」

何しろ相手は、あの…マッドサイエンティストのドクターだ。

また…彼のモルモットにでもされたら、大変じゃないか。

裕太はそう思う。


『それは、心配ない』

 また裕太の頭の中で、ファルコンの声が響く。

『アイツは…ドクターのお気に入りなんだ』

「えっ?」

思わず裕太が声をもらす。

「どうした?」

裕太の声を聞きとがめて、ジュンペイがけげんな顔で、こちらを

振り向く。

(もしかして…ジュンペイには、ファルコンの声が聞こえないのか?)

裕太はふいに、気が付く。

(どうしてなんだ?)

そう思うけれども…

『アイツのことは、心配いらない。

 すぐに追いかけるさ』

ファルコンの穏やかな声が、裕太の頭に響いた。

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