第54話 どうなる、裕太?

  裕太はハッと息をのむと、スーッと大きく息を吐き、

(大丈夫、大丈夫)

心の中で、言い聞かせた。

「ねぇ~オジサンって、だれ?」

なるべく無邪気な声で、話しかける。

回りの男たちは、ザワついている。

「こ、こら!」

「失礼だぞ」

「おとなしくしてろ!」

声のボリュームは、落としているはず。

うるさいのは、オジサンたちだよ?

顔をしかめて、裕太はつぶやく。


「まぁ、まぁ。子供相手に、何を騒いでいる」

 白衣の男は怒るでもなく、むしろ平然とした態度で、

裕太をゆっくりと見下ろす。

「可愛い子供じゃないか」

それは本気なのか、御世辞なのか、皮肉なのかはわからない

けれど…裕太を見ると、にぃっと歯をむき出しにして笑う。

 思わず裕太はビクッと身震いをする。

その引くついた笑い顔は…

なぜか異様なくらいの、殺気を感じる。

まるで…死神に取り付かれたような、そんな怖いくらいの

悪意を感じた。

(むやみに近付かない方が、身のためだ)

裕太の直感が、危険信号を点滅させた。


 じぃっとしていると、どこかでサルやネズミの甲高い声が

聞こえる。

(この部屋って…)

裕太は想像してみたものの、あまりいいイメージが思い

浮かんでこない。

「ねぇ~この部屋って…何をするところ?」

段々と不穏な空気に、押しつぶされそうな気持になる。

けれども、何とか自分を奮い立たせる。

その間も、男は光るまなざしで、じぃっと値踏みするように、

裕太を見ている。

「あっ、もしかして…サキアさんに、会わせてくれるの?」

わざと何も気づいていない、無垢な子供のふりをして、精一杯

明るく話しかける。

少しでも話していないと、叫び出しそうな気がしたからだ。

だが男は黙ったまま、ヘラリと笑った。

(何だか…マズい所へ、来たのかなぁ)

やはり、あまりいいイメージが浮かばない。


 その白衣の男は、ジロジロと裕太を見ている間、

裕太は何とか手がかりがないかと、キョロキョロと見回す。

男はじぃっと見た後、くるりと背中を向ける。

 姿が消えた後、思わず裕太は膝から崩れ落ちるようにして、

その場にしゃがみ込む。

(とりあえず、命がつながった)

ホッとしている間も、周りの男たちが、何やらバタバタと走りまわっていた。




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