第250話 モップと頭は使いよう?

 あの雑巾みたいな固まりを、下にするのか?

そんなこと、思いもつかなかったなぁ~

裕太は心の中で、そうつぶやく。

ジャックは上を向いたまま、

「なぁ、一旦、これを下に下ろすよ」

そう言うと、手を離した。

「えっ?おい、危ない!」

彼が手を緩めたとたん、ダーンと大木が倒れるように、

勢いよく床に落ちて来る。

「ホントに、大丈夫?」

ジャックは思いのほか、大胆なようだ。

「さぁ?わかんないなぁ」

ははは…と笑うと、ズルズルとモップを引きずる。

「これを下に」

クルリと棒の向きを反対方向に、

「よっこらしょ!」とひっくり返すと、先端を立てようとした。

「待って!」

あわてて裕太も手を伸ばすと、

「いくよ!」

ジャックの号令に合わせて、

よいしょ!

その棒を立てかける。

「それでさ、こうして棒を押して進むんだ」

ジャックがふざけて、すーいと滑らせるような真似をする。


棒の左側に、裕太。

右側に、ジャック。

モップのモジャモジャな部分を、滑らせるようにして進む。

「あ~っ、重くない~」

裕太がはしゃいだ声を上げると、

へへへ…

何だか得意そうに、ジャックは鼻の頭をこする。

「これ、モップだろ? 

 モップは、床を滑らせるものだ。

 なら…この方が、断然楽だろ?」

ジャックが胸を張って言う。

「なるほどぉ」

これは、盲点だったな!

まったく思いつかなかったな、と2人で押して進むと、

あっという間に、目指す洗面台にまで到達した。

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