第20話 お疲れ様、サキアさん!

「そうですなぁ~この辺りがいいのでは?」

 サキアさんの姿を見ると、たちまち手の平返しをする武器店主だ。

そうはいっても、子供にも扱える、危なくない物を…

といって、出して来たのはロープ、パチンコ、アーミーナイフ

などだった。

「え~っ、もっといいのはないの?」

軽くて、丈夫で、強いヤツ!

せめて野球のバットくらいあればなぁ~

「子供扱いするなよ」

「子供じゃないかぁ!」

即座にサキアさんに却下され、ジュンペイはふてくされる。

「ちぇ~せめて、持っていたリュックサックがあればなぁ~

 あの中に、もっとマシなの、あったのにぃ」

 そういえば…ドローンがどうなったのかも、気になる。

花火はきっと、湿気て使い物にはならないよな。

懐中電灯や、ナイフにろうそく、あとライター。

思えば惜しいことをした…

悔しくなって、地団駄を踏むジュンペイだ。

 カウンターに並べられたものを見ると、思ったよりも見劣りがする。

悔しさに、再び足を踏み鳴らした。

「じゃあさぁ…勇者の剣とか、ピストルとか?」

不満そうに、大きな声で言い募ると、さすがの店主も、

何を言ってるんだ、と腰に手をあてて

「ダメダメ!子供には危ない」

手を振って、顔をしかめた。

「ちぇ~ケチだなぁ。

 子供だからって、ナメているんじゃないのぉ?」

わざと大きな声を上げて、サキアの方を振り向いた。

「ところで私はいつから…あんたたちの保護者になったんだろうねぇ」

先程から、何度目からのため息がもれる。


 サキアといえば…この界隈では知らぬ者はいない、クールで

少しおっかない女…という評判なのだ。

彼女に目をつけられた者は、ただでは済まされない、という

都市伝説があるくらいなのだが。

まさか、ほんの数日で…そのイメージが、叩き壊されるとは!

(こっちこそ、ナメられたものだ…)

サキアの嘆きは続く。

そんな彼女を、黙って見守っているのが、寡黙なボディーガードだ。

彼は先ほどから、心配そうに、こちらを見ている。

「サキア様のお孫さんですか?」

うかつにも…このスットコドッコイな店主が、彼女の地雷を

邪気もなく思いきり踏んだ。

「はぁっ?」

 思わず絶句する。

クールで、セレブで、美人実業家のこの自分が…

よりによって、このはねっかえりたちの婆さんだと?

(地に落ちたな)

「私は、独身だ…」

(しかも、そんな歳ではない!)

ドスの利いた、押し殺した低い声で、彼女はジロリとにらんだ。


ピクリ…

ヘビににらまれたカエルのように、さすがの店主も、

自分が禁句を発したことに気付く。

凄まじいくらいの殺気を感じて、紙のように蒼白になると…

「そ、そうですよね?

 それはそうです。

 大変失礼いたしました!」

泣き出しそうなくらいに、ガタガタ震えて、あわてて頭を下げる。

地面に頭をすりつけるくらいに、腰をかがめて…

命じられたら、土下座も辞さないくらいの勢いだ。

 この土地で、彼女ににらまれたら、商売が出来なくなるどころか、

2度とこの地を踏むことさえ、許されない…と聞く。

顔面蒼白になり、何度も何度も腰まで身体を折った。


 どうしてこのオバサンのことを、こんなに怖がるのだろう?

裕太は、大人のくせにおびえる店主を見て、笑い出しそうになる。

「サキア様、そろそろ…」

ボディーガードが気を回して、彼女をうながす。

「まぁ、いい。じゃ、それをもらおう」

出されたものを、袋に入れさせて、その場を離れた。

「ありがとうございました!」

大きな声で、腰を曲げると、サキアたちの姿が見えなくなるまで、

その姿勢のまま、固まっていた。




 

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