第316話 ボクは、ここまで。
「いいえ、ネズミじゃないの?」
マーサの声がすると、いきなり勝手口から、巨大なものが飛んで
きた。
「えっ、なに?」
あわてて犬小屋の陰に隠れると…それは、大きな肉の固まりだった。
おとなしく、庭の隅の方にいた犬たちが、そちらに向かって走って
くる。
「ほら、何もいないじゃないの」
勝手口から、チラッとマーサの頭がのぞく。
「今だ、逃げろ!」
ジャックが叫ぶと、小屋の隅から、一目散に駆け出した。
後ろを振り向くことなく、3人は一斉に走り出す。
もうこれで…こことはおさらばだ、と裕太は心の中でそう思う。
背中に背負ったリュックサックが、カタカタと鳴る。
後でマーサの作ってくれた、弁当を食べよう…と思うと、
とても楽しみになってきた。
草原を走り抜け、高台に上る。
いつの間にか、巨人の屋敷が見えなくなっていた。
「もう、この辺で大丈夫だろう」
ようやくジュンペイが、走るのをやめた。
「そう?」
少し遅れて、裕太も足を止める。
丁度門のようなものが、すぐ近くに立っている。
ジャックは、袋を背負い直すと、
「ボクは、ここまでだ」
真面目な顔で、そう告げた。
「そうなのかぁ。
でも、どうするの?」
せっかく仲良くなったのに…
ここで別れる、と言うジャックのことを、裕太は残念そうに
見詰める。
「でも、どうして?
ついでだから、一緒にトオを目指そうよ」
未練がましくそう言うと
「ダメなんだ」
静かにジャックは、頭を振る。
「ボクは、受け付けをしていないし、母さんの所へ帰らなくちゃ」
かたくなに、背中の袋を手でさわり、頭を垂れる。
「ジャックのお母さん?」
すっかり裕太の頭の中では、その存在が抜け落ちていた。
(母さんかぁ~今頃何をしているんだろ?じいちゃんは?)
いきなり心配になってくる。
「じゃあ…豆の木を降りて、帰るの?」
このまま、一緒だ…と思っていたので、裕太はひどくガッカリした。
「キミたちは…次の場所へ行かなくちゃ」
ジャックは明るくそう言うと、門の所を指差す。
「ボクはね、この門の外へは出られないんだ。
だから、どうしても一緒には行けない」
幾分、寂しそうに言った。
だが、すぐににぃっと笑うと
「おみやげ…ありがとう!」
軽く袋を、後ろ手でポンポンと叩く。
「あぁ!一人占めする気なんだな!」
いきなりジュンペイが、ジャックに向かって、大きな声を出した。
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