第111話 みんな、いなくなってしまう?
「あれ?もう起きていたんだ」
眠そうな顔で、裕太が顔をのぞかせる。
「おはよう、よく眠れた?」
ニコニコしながら、マリさんが言うのを、裕太はコクンとうなづく。
「昨日はいつの間にか、寝てた」
ふわぁ~と大きな口を開けて、あくびをした。
「今日は、街の人に話を聞きに行くそうだ」
とおに身支度をして、サキアはテーブルで新聞を開いている。
「サキアさんは?」
珍しいものを見るように、裕太は彼女を見つめると
「いや、私は仕事がある」
そう言うと、
「あら、そうなの?」
そんなことは、少しも知らなかった…と、マリさんは、少し残念そうな
顔をした。
「それじゃあ…もう行っちゃうの?」
早々に、ボディーガードが顔をのぞかせると、マリさんはとても
寂しそうな顔になる。
「みんな…いなくなるのね?
サキア、あなたもよ」
暖炉の上に置いてある、写真立てをチラリと見やる。
それは…サキアにとっても、幸せな思い出だ。
マリさんを革命家だったダンナさんと、そしてまだ幼いサキア。
サキアの両親も活動家で、しょっちゅうマリさんの所に、泊まって
いたのだ。
両親が亡くなった後…マリさんが親代わりとして、彼女を育て、
そして18の誕生日に、家を出て行ったのだ。
「また、来るわ」
そうささやくと、サキアはそっとマリさんを抱き締める。
「あなたは…私のお母さんだもの…」
マリさんを抱き締める、サキアの顏は…今までに見たことのない
くらい、とても優しさに満ちた顔をしていた。
その様子を見て、
「外に出ようか」
ボディーガードを案内してきたミナトが、裕太たちを促す。
その様子に気が付くと
「あら、気を使わなくても、いいのに」
マリさんは目を赤くしたまま、弱々しく微笑む。
その泣き笑いの表情は、何だかいきなり老け込んだようで、裕太には
とても痛々しく見えた。
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