第290話 眠れる巨人

「何をするんだよ」

 いきなり口をふさがれて、ジュンペイは手足をバタバタさせる。

すぐに身をよじるようにすると、裕太の手からスルリと離れる。

それならば、何かいいものがないかと、物色するように、フラフラと

辺りを歩き回る。

その間も、心地よいハープの音が、眠気を誘う…

(これって、トラップか?

 まるで催眠の魔法でも、かけられているのか?)

裕太はそう、勘ぐったりもしていた。


 この部屋は、小学校の体育館ぐらいはあるのではなかろうか…

結構な奥行きがある。

暖炉には、火がついてはいないけれど、部屋には灯りが灯っていた。

巨人がすぐに起きてくるのではないか?

裕太はまだ、警戒している。

 大きな柱時計が、反対側の壁際に置かれていて、

もしも何かがあったら…イソップ物語のヤギ(ヒツジか?)のように

この中に隠れよう、と裕太は早速目星を付ける。

机の上には、飲みかけのワインと、

鳥のもも肉が、ドンと置かれている。

おそらく食べている最中に、眠たくなったのだろう…

裕太は、巨人を起こさないようにと、そーっと部屋の隅に移動した。

だがジュンペイは、まだ名残惜しそうに、ハープに目を向けている。

「ほら、早く!ここから出るんだ」

未練がましくしているジュンペイに、裕太は声をかけた。

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