第120話 聖なる泉の流れる場所へ…

「こっちへ」

 村長の後ろから、女の人が裕太たちに近付く。

足音が聞こえなかったので、一瞬ドキリとして

「えっ、なに?」

裕太はうろたえる。

だが女性は平然とした顔で

「あの方に会いに行くのなら、身を清めないと」

裕太の手を引く。

「えっ、なんで?」

「会いに行くだけだろ?」

 まるで自分たちが、ホームレスのように臭くて、汚い…

と言われたようで、ジュンペイはムッとした顔になる。


 なんだ?

 面倒だなぁ!

ブスッとしたジュンペイに目をやると、村長のアキラさんは、

毅然とした表情で、

「聖なる場所へ向かうのならば、それなりにするのは、当然の

 ことだ」

さっきとは違う、厳しい口調でキッパリとそう言う。

「あのぉ、別にそんな偉い人じゃなくても…

 詳しい人ならば、誰でもいいんだけど」

呆れたように裕太が言う。

「我々は、あの方にすべてをゆだねている。

 従えないのなら、帰ってもらおう」

ビシリと言われてしまうと…

「はぁ~」

ここはうなづかざるを得ない。

マリさんに、助けを求めるように見たけれど、黙ってこちらを

見ているだけだ。

「それじゃあ、頼んだぞ」

アキラさんは、その女性に向かって、あらためて言うと、

彼女はペコリと頭を下げた。


「とにかく、こちらへ…」

 女性に連れて行かれた場所は、清らかな泉が湧き出るような

神秘的な場所だった。

シンと静まり返り、深い森の中にいるようだ。

「ここは…新しいことを始める前には、必ずミソギをする所よ」

 深い岩の間に、水の音が聞こえる。

「身体を清めたら、この衣に着替えてね」

白い綿の浴衣のような服を、各々に手渡す。

そんなことを、いきなり言われても、どんな風にしたらいいのか、

わからない。

女性はすぐに、その場を離れた。

モジモジとして、固まっている裕太たちを見かねたのか、

「いいから、真似をして」

そう言うと、案内してきたミナトが、竹にすだれを垂らしただけの、

簡易な脱衣所に入ると、着て来た服を脱ぎ捨てる。

あっという間に裸になると、まっすぐに泉の方へと向かった。

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