第72話 裕太はどこに?

 するとマリさんが、急にヘラリと笑い、

「あら、あなた!

 えらくドクターがご執心だったようだけど…

 もしかして、そういう関係だったんじゃあないの?」

からかうように言う。

「まさか!」

「ねぇ、そういう関係って、なに?」

小学生のジュンペイは、2人を見上げるようにして聞く。

大人2人が、何だかコソコソとしているのを見て、

自分だけのけ者になった気がして、黙っていられなくなったのだ。

 マリさんは、ジュンペイに気が付くと、困った顔になり

「それはほら…友達というか、ねぇ」

妙に言いづらそうにして、ショーンを目でうながす。

まるでバトンタッチしてくれ、とでもいうように。

「なんだよ、それ!」

彼は不満そうにするけれど

「キミだって、裕太くんのこと、大事に思っているんでしょ」

マリさんに言われた。

「ふーん」

何となく、うやむやなまま、ズンズンと一行は、建物の

最深部へと向かって行く。


「ここは、表向きは…人類の進化のための、最先端の研究施設という

 触れ込みになっているけれど…

 内実はまったく、違う面を持っているんだ」

 さして感情の伴わない、平坦な表情で、ショーンが言う。

一体、ドクターはどんな研究をしている、というのか…

ジュンペイは、不思議そうな顔をする。

だけども、目の前のショーンを見ていると、それも何となく、

わかるような気がする。

「世間に公表して、しっかりとアピールするものは、2階とか

 目に付く場所で研究して…

 闇の部分…人にあまり見せたくないものは、

 人目のつきにくい場所に、置くんだと思うんだ」

そう言われれば、ショーンも、地下の寂しい場所に檻があった…

「裕太くんも、おそらくそういう場所だと思うよ」

にっと笑うと、まるでギリシャ彫刻のようなひんやりと冷たい顔に、

ぽっと明るさがにじみ出る。

「それって、もしかして?」

「そう!地下だ!」

ショーンとマリさんが、目を見合わせた。

 そういえば…自分たちが今、地下にいるというのも、忘れて

しまいそうになっている。

それにしても…この研究施設は、どのくらいの規模のものだろう?

再びショーンの灯りを頼りに、通路を歩いていた。

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