第311話 大きなネズミ?

「ほらっ」

 ジャックが裕太の手を引くと

「こっちだ」

さっさと前に進んで行く。

いきなり正面に進まず、壁面に沿って、裕太たちを誘導する。

ずいぶん手慣れているのだなぁ~

裕太が感心していると、キッチンの側に出て来た。

(あっ、マーサだ!)

そう思い、裕太が近付いて行こうとすると…

再びグィッと、ジャックに腕を引っ張られる。

「なんだよぉ」

思わずにらみつけると、

「しぃっ!」

慌てて壁際に、押しやられた。


「おまえ…ネズミたちを、見たか?」

 いきなり大きな声がする。

(巨人の声だ!)

でも、どこに?

声の主を探して、キョロキョロとしていると…

キッチンの入り口の所で、マーサに向かって、話しかけて

いるようだった。

「ネズミ?いいえ!」

すかさずマーサが、返事をする。

「人間の子供は、来ていないか?」

ドアからぬぅっと、巨人の顏がのぞき込む。

ひっ!

思わず裕太の声が漏れる。

『しぃ~っ!』

今度はジュンペイが、唇に手を当てた。

「人間の子供?いいえ!」

 マーサは流し台の所で、何かを洗っているようだ。

ザアザアと水を使う音が聞こえる。

グンと巨人の大きな足が、キッチンの中に侵入してきた。


(ヤバイ!)

 裕太はあわてて、柱の陰に隠れる。

巨人は部屋の中を、キョロキョロと見回すと

「くさい、くさい!人間臭いぞ!」

鼻をヒクヒクさせて。マーサに向かって怒鳴る。

「あら、何をおっしゃっているんですか?」

マーサの声がする。

『あっ』

思わず裕太が、声をもらしそうになると、ジャックが

『しぃ~っ!』と、大きなカゴの陰に、裕太を押しやる。

「おい。やっぱり、人間のニオイがするぞ!」

やはりまだ、巨人がウロウロとして探している。

「そこにいるんじゃあないのか?」

なおもしつこく、マーサの周りをふらふらとしているので、

裕太たちは完全に、動きをふさがれる。

《どうしよう?》

するとマーサが水を止めると、エプロンで手を拭く。

「あら、そんなことはないですよ。

 肉を焼いたから、そのにおいなんじゃあないですか?」

そう言うと、フライパンの蓋を開ける。

ジューッと音がすると、香ばしい食欲をそそる匂いが、

部屋中に広がった。

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