第312話 すきを見て、逃げろ!

「そうか?」 

 まだ納得していないようで、巨人はキョロキョロと、部屋の中を

見回している。

マーサはさり気なく、カゴの側に近付くと、自分の身体で裕太たちを

隠すようにして、右手を後ろに回す。

そうして、裕太たちに見えるように、腰の辺りで玄関の方を指差した。


『あっ』

 マーサが、何かを指している。

何かの合図か?

裕太がジャックを見ると、ジャックもジュンペイを振り向く。

さらにマーサが、クイクイと指を動かすので、巨人は目ざとく気が付くと、

「おい、何をしているんだ?」

ドスドスと足音をたてて、彼女に近づく。

ジャックはすぐに、異変に気付くと

『おい、今のうちに逃げるぞ』

裕太に向かって、小声でささやいた。

 コクンとうなづくと、裕太はチラリと、マーサの方を見る。

『早く!』

ジュンペイが、グイグイと裕太の手を引っ張る。

『あぁ』

ようやくうなづくと、あわててジュンペイの後を追いかける。


 巨人は、マーサの側まで近づいて来たけれど、マーサは何とか

巨人の気をそらそうとしている。

わざと「あっ!」と叫ぶと

「そうでした!

 ご主人様、ニワトリが盗まれました」

反対側の窓を指差す。

「鶏?どの鶏か?」

大好物の鶏のことを言われると、さすがの巨人も、子供たちの

追求の手を止めて、マーサの方に注目する。

マーサも気をよくして、さらに大きくうなづくと、大げさなくらいに

眉をひそめると、

「あのニワトリです。金の卵を産む鶏です」

キッパリと言うと、ふいをついて、裕太たちに手で合図をした。

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