第359話 サキアになりたかった女

「アイツ、勝手に出て行ったんだ。

 私の側にいるのが、イヤになったんだろ」

 少し寂しそうに、サキアさんがうつむくので、

「そんなことは、ないと思います」

とっさに裕太が、声をかける。

「シェーラさんは…サキアさんに憧れていたのだと思います。

 きっと…サキアさんに、なりたかったんだと思います」

そのスラっとした、筋肉質な背中に声をかけると、かすかに

揺れているのが、見て取れた。


(まさか…泣いているの?)

「あのぉ~」

さすがに、どうしたらいいのかわからない。

困ったなぁと思いながら、裕太が声をかける。

ハハハハハ…

いきなりサキアさんが、声を上げて笑う。

(えっ、なに?)

こんな女の人は、今まで見たことがない…

裕太がビクッと肩をこわばらせる。

「アイツ…かくれんぼをしているつもりなのか?

 それなら…私にだって、考えがある」

髪をパラっと振り払うと、いきなり裕太を見下ろす。

「行くぞ」

力強く宣言する。

「へっ?」

この…切り替えの早さは、何なんだ?

あまりのことに、裕太は戸惑う。

するとサキアさんは、ちょっとイラついた様子で、手を面倒くさそうに

振ると、

「何をしている?

 友達を、助けるんじゃあないのか?」

私も忙しいんだ、とクルリと背を向けると、サキアさんはおかまいなしで

歩き出す。

「えっ、ちょっと!」

あわてて裕太は、リュックサックを背負い直した。


 

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