第144話 遠い日の思い出

 ただ…地下の人たちの居住区のように、あまり印がないので、

まだまだ遠いのかもしれない。

それでも時々、闇夜を照らす光のように、ポツンポツンと

道しるべに光る石が置いてある。

(まるで、ヘンゼルとグレーテルみたい)

こちらは、月ではなく、ペンライトの光を当てて、それをたどって

歩いて行く。

もしもそれがなかったら、どこにいるのかわからなくて、途方に

暮れることだろう…


「もう…あと少しかな」

 前を向いたまま、ミナトは告げる。

「そう?」

「ね、キヨラさんって…ずーっとあそこに住んでいるの?」

もう忘れたのかと思いきや、まだジュンペイは気にしていたようだ。

「寂しくないのかなぁ」

再び蒸し返すように、ジュンペイがつぶやく。

「そうだなぁ…でも、ずっとじゃないよ」

ミナトは伸びやかな声で、そう言った。

(コイツ、また言ってる)

 まさか余計なことを言わないだろうな、と裕太が警戒していると

「うん、10歳になるまでは…一緒に村で暮らしていたよ」

前を向いたまま、ポツンとミナトは言う。

「えっ、そうなの?」

思わず裕太も口を開いた。


「誰が10歳まで、いたんだって?」

 いきなり向こうの方から、声がする。

「だれ?ハヤトか?」

すぐさまミナトが、鋭い声を放つと、いきなり身をひるがえし、

裕太たちを守る態勢になった。

「おまえたち…何をのんびりと、くっちゃべっているんだよぉ。

 待ちくたびれたゾォ~」

 からかうように言いながら、暗闇から迷彩柄の上下を着た

男たちが、ぬうっと姿を現した。


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