第158話 銀の竜の背に乗って?

『なぁ、ちょっと』

 そっと裕太を壁際に引っ張ると、ジュンペイはニヤニヤ

してこっちを見る。

『なに?』

何だか、嫌な予感がする…

こんな顔をする時は、要注意なのだ。

案の定、ジュンペイはヘラヘラしながら裕太を見ると、

『ねぇ、あの竜って…背中に乗れないかなぁ』

先ほど卵からかえったばかりのファルコンを、目で追う。

想像していた竜は、もっと獰猛で、凶暴…というイメージ

なのだが、思ったよりもおとなしく、しかも人間の言葉を

理解しているようにも見えた。

『ねぇ、裕太…あれ、やってよ』

『あれって、なに?』

『ほらぁ~ショーンに教えてもらったヤツ!』

じれたように、ジュンペイが言う。

(だから、イヤな予感がしたんだよぉ)

「う…ん」

裕太は渋い顔をした。


 話し込んでいる大人たちは、無視して、2人はジワリジワリと

ファルコンに、近付いて行く。

ミナトたちは、ミナトたちで、どうやってあそこへ渡るか…

という話で、盛り上がっている。

ロープのついた弓矢を射るとか、

サキアさんに、何かロボットを貸してもらおう…とか。

何かとっかかりが、ないものか…

あのツルを、うまく有効活用できないものだろうか…とか、

子供たちだけであのトオに行かせても、大丈夫なのか…とか。

あの入ったら最後、帰ることが出来る人が、ほぼいない…

と言われるあのトオへ、行かせても、無事に済むわけがない…

誰もがそう、思っていた。

「そんなの、サキアさんにまかせるしか、ないだろ!」

ミナトがひと言、ビシッと言い放つと、

「おや、君たち…そこで何しているの?」

さっきまで、陰でだまって見守っていたマリさんが、裕太たちに

声をかけた。


 ソロソロとファルコンに、にじり寄っていた2人は、悪いことを

見つかったかのように、ビクリと足を止めると、

どうしよう…と、素知らぬふりをしようとする。

(あっ、しまった!見つかった!)

マズイ…

まさかマリさんが、自分たちの行動の一部始終に、気が付いて

いたなんて…

それは、想定外だった。

「ボクたちは、あのぉ~」

目を泳がせて、言葉をつまらせる裕太と、

「竜に乗れないかなぁ、と思って」

ヘヘヘと笑ってごまかそうとするジュンペイ。

「あら!」

マリさんも、つられてファルコンを振り返る。

「そっかぁ~

 それもいいかもねぇ」

あくまでも、マリさんはにこやかに笑う。

「でも!その笛はなぁに?」

マリさんは、裕太が首にかけている笛を指差した。

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