第35話 鬼のいぬ間の何とやら?

 さすが、サキアの常宿というだけあって、部屋の真ん中の

ソファーの処には、ウェルカムフルーツが置いてある。

家探しを実行していたジュンペイは、そのバスケットを

見つけると、

「うーん、果物しかないなぁ。

 お饅頭くらい、置いとけばいいのに!」

バナナに手を伸ばすと、ポキンと折りとる。

「ほぃっ!」

裕太にも、投げてよこした。

「そりゃあ、温泉旅館じゃないから、饅頭を置いているわけが

 ないだろ」

思わずジュンペイに突っ込む。

「しけてんなぁ。せんべいくらいあればいいのに」

リンゴやメロンがあっても、である。

「こんなおしゃれなホテルに、せんべいは似合わないだろ?」

バカだなぁ~

裕太は笑う。


 思えば今朝、といっても、ほとんど昼だが、愉快なお姉さんの

屋台で、たこ焼きを食べたきりだ。

思い出したとたん、ぐぅ~とお腹が鳴る。

いつの間にか、ジュンペイはすでにバナナを1本平らげていて、

もう1本の皮をむいている。

「レストランとか、ないのかなぁ」

部屋にツケてもらってさぁ~

バナナを見つめて、思わず裕太がつぶやく。

「おっ、それだ!」

パチンと指を鳴らして、ジュンペイは目を輝かせる。

「行こうぜ」

サッサと靴に足を突っ込むので、

「ダメだよぉ~

 ほら、ミスターが帰るのを、待たなくちゃ!」

あわててジュンペイを止めた。

「それに…勝手に部屋を出るなって、言われたでしょ?」

引き留めるために、重ねて言うと、ジュンペイは靴を

ほぃっと脱ぎ捨てると

「ちぇ~固いこと、言うなよぉ」

ホント、裕太は真面目なんだから…

ジュンペイはブツブツと文句を言った。


「そうだ!」

 ぴょん!と椅子から飛び降りると、トトト…と机の方へと

近付いて行く。

「こういうトコって、ルームサービスがあるよな?」

「あ、そうだな」

裕太はイヤな予感しかしない。

「試してみようぜ!」

やった!

嬉しそうにジュンペイはニヤリと笑うと、勝手に引き出しを

あさり始める。

「おっ、ハンバーグがある!

 カレーもいいなぁ、

 あっ、ステーキ?

 おい、裕太は、どうする?」

パラパラと備え付けのメニューを、金額も見ずにめくって、

ジュンペイは満面の笑みを浮かべる。

「すごいなぁ~

 なんか、こういうとこって、ご飯もすごいんだろうなぁ」

歓声を上げる。

(値段もすごいぞ)

のん気なジュンペイを見て、思わず裕太はつぶやく。

(ヤバイ、ミスターが帰ってきたら、怒られないかなぁ。

 ボク…知らないぞ!)

そう思いつつも、やっぱりチラリとメニューをのぞき込む。

またもお腹が、ぐぅっと鳴る。

まぁ、いっかぁ~

こんなことがなければ、きっとホテルのご飯なんて、

食べられないんだもんな!

何だか、金持ちになった気分だ。

はしゃぐジュンペイを見て、裕太は思わずヘラリと笑う。

「そうだね」

これって、どこかで見た?

ホームアローンの映画だ!

母さんと、テレビの洋画劇場で見た、あの映画を思い出していた。

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