第42話 企みの5分前…

 裕太はジュンペイに向かって、そっと合図をする。

ジュンペイは何を思ったのか、アッカンベーをした。

そうしてスルリ…とドアをすり抜けると、すぐにドアが閉まり、

カギのかかる音がした。

(バレないように、うまくやってくれよ!)

心の中で、裕太はそうつぶやいた。


「まったく…お前たちみたいなガキ、連れて来るなんて…

 本当は、俺は反対だったんだ」

 余計な手間を増やして…ブツブツ言いながら、大男が

ジュンペイのすぐ脇を歩いている。

ジュンペイはおとなしく、その男の側を歩きながら、キョロキョロ

と何かを探すような目付きをした。


「ほら、ここだ」

 懐中電灯で、入り口を指し示すと、当然という顔をして、

ジュンペイと一緒に中に入ろうとする。

「えっ、ちょっとぉ」

ジュンペイはあからさまに、抗議する目で、男を見る。

「一緒にいられたら…出るものも、出ないよぉ~」

キッとにらみつける。

男はムッとした顔をする。

「ほら、出口はここしかないだろ?」

澄ました顔で、指し示す。

「だから、こっちで、ちょっと待ってて!」

早くぅ~と言いながら、男の背中を押す。

「ったく…しかたがないなぁ」

明らかに面倒臭そうな顔をして、男はしぶしぶそこにとどまる。

「早くしろよ!

 あんまり遅いと、中に入るからな!」

ジュンペイの背中に向かって、怒鳴りつけた。


「よしよし」

 うまくいったなぁ。

ジュンペイは満足そうに、スタスタと入って行く。

男が本当に、中に入って来ないか…と、後ろを振り返る。

「よし!」

小さくつぶやくと、裕太の言っていたことを、思い出していた。

「え~っと、用具入れはどこだ?」

時間がないぞ、とスタスタ奥に行くと、掃除道具の入っている場所を

探す。


「ねぇ~トイレットペーパーが、ないんだけどぉ」

 入り口に向かって、大きな声で叫ぶ。

「はぁ?ペーパーがないんだとぉ?

 なかったら、適当にしとけ」

「え~、それはイヤだよぉ」

「メンドクサイガキだなぁ」

男が中に入って来ようとする、気配がした。

「あっ、いい、いい!

 自分で探すから…どこにあるのかだけ、教えて」

あわててジュンペイが叫んだ。

「まったく、メンドクサイガキだなぁ~」

大きな声で、男がこぼすと

「用具入れが奥にあるから、その中を探してみろ」

中をのぞき込むようにして、男はジュンペイに向かって、

声をかけた。

「わかったぁ」

無邪気な声を出すと、早速用具入れを開けた。


 整然と整頓された掃除道具が、目に入る。

「え~とぉ、バケツ、バケツ!」

まず探すのは、金属製のバケツだ。

「プラスチックだけど、まぁいいかぁ」

モップとそれから洗剤…

「洗剤?洗剤なんて、ここにあるのか?」

ホースや、カッポンカッポンはあるけれど?

バケツに入っておる雑巾をどけて、中をのぞき込んだ。

おっ、あったぞ!

あとは…なんだっけ?

ジュンペイは、裕太に言われたものを、探し続けた。

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