第81話 あの場所は立ち入り禁止区域?

 こんな発言が、もしも上司の耳に入ったら、減給どころでは

済まないだろう…

その女性研究員は、おぼろげながらそう思う。

「大丈夫だよ!」

ポンと先輩研究員が、彼女の肩をたたくと、

「キミは真面目過ぎるから…色々と悩むんだろうなぁ」

訳知り顔をして、納得したように言う。

「ま、確かに、あのドクターって、変わっているもんなぁ。

 地下のあの開かずの部屋だって…

 誰にも近付けないもんな!」

 そういえば…確か、ドクター専用の部屋は、2階の1番大きな

部屋のはずだ。

「あの部屋、何なんですか?

 時々あそこから…妙な音が聞こえるって、もっぱらの噂ですよ!」

彼女はこの機会に、疑問に思っていることを、打ち明けてみる。

 だが先輩は、腕組みをした後、

「さぁなぁ」

言葉を詰まらせた。

「あそこには…ドクターのとても大切なものがある、としか

 聞いていないよ」

聞かなくともわかる。

おそらくは、他の研究員たちも、似たりよったりだろう。

事情を知っているのは、ドクター含め、ごくごく一部の上層部の

人たちのはずだ。

末端の自分たちが知る日は、きっと訪れることはないだろう…

彼らは一瞬、黙り込んだ。


「でもいずれは、サキアさんのロボットに、とってかわられる、

 ともっぱらの噂ですよ!」

 先ほどから黙っていた新入りが、ようやく得意気に、口を挟む。

「それ、ホントかなぁ」

懐疑的な先輩研究員が、疑わし気な顔をすると

「そうですよ!」

大きくうなづく。

「でも、そうなると…ボクたちの研究は、続ける意味って、

 あるのかなぁ」

どこかで聞きかじった情報を、この新入りは知ったかぶりをして

並べ立てる。

「それとこれとは、話が別だろ?

 たとえAIに変わったとしても、人の身体は生身だ。

 変わらないだろ?

 それは違うよ!」

 熱血漢の先輩が、揺らぐことなく、ポンポンと後輩に向かって

力強く言い放つ。

「ボクたちには、ボクたちの使命があるんだ。

 ドクターのような、上の人のことは…理解出来なくても、

 当たり前なのさ!」

キッパリと言い切ると…

「ほら!さっさと仕事するぞ」

速足で、後輩たちを追い越して、廊下を通り抜けて行った。

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