第80話 それは秘密の研究室?
「なんか、地下に行くのが、嫌だなぁ」
憂鬱そうな顔をして、女の研究員が廊下を歩きながら、
同僚に向かって言う。
「どうして?」
まだ新入りの男の子は、ピンと来ないらしく、この先輩を
振り向く。
白に統一された、この研究施設は…もとにあったものを、
リノベーションした、ということだ。
地下には、昔の施設をそのままに使用している、という噂だ。
夜中に行くと、人のうめき声だとか、
動物の声がする、とか、
幽霊が出る…という噂があるのだ。
「だって、ご遺体があるじゃない」
それも普通のご遺体ではなく…
顔をしかめて、女の研究員は、辺りを見回す。
こんなこと…上司や他の同僚に聞かれたら、何と言われるか
わからないからだ。
「遺体って…トオから来た、『サンプル』だろ?」
もう1人の研究員は、呆れた顔をする。
「そんなの、もう見慣れただろ?」
平然と言うベテランの研究員だ。
新入りは、まだピンとこないようで…
「サンプルって?」
キョトンとする。
「あら、知らない?
あそこから定期的に…特殊な『サンプル』を運んで来て
もらっているのよ」
淡々と女性の研究員が言う。
「そうそう」
ベテランの男の研究員は、もっともらしくうなづくと…
「わかるだろ?
あれを使って、病気の人のための新薬の開発や、臓器を作成したり、
手足の欠損した人に、応用出来るようにと、豚なんかを使って
研究しているんだ」
確かに、研究の一部は、自分たちも関わっている。
マウスやウサギを使って…
だけど…と、女性の研究員は思う。
あれが、本当にそういうことに使われているのだろうか…?
彼女は、ホルマリン漬けになったサンプルのことを、思い浮かべて
ゲンナリとした。
一般には、非公開であるこの研究が、本当に医療の役に立って
いるのか…
彼女たち末端の研究員には、その真実を知らされてはいない。
だが、誇らしげに言う、正義感の強い真面目な先輩の顔を見ていると…
自分の疑問を、打ち明けるわけにはいかない。
(もしかして、気のせいなのだろうか?)
「だけど」
彼女は、上司の顔を思い浮かべる。
「でも、私…
時々あのドクターのことが、怖くなるの」
声をひそめて、そう言った。
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