第295話 全力で走れ!

 小さい穴だ…と思っていたけれど、子供だったら、身体をかがめたら、

難なく入れる大きさだ。

すぃっと飛び込む時、ドスンと巨人の足が止まる。

(まるで、トムとジェリーだ)

全然関係ないのに、何となく裕太はそう思う。

 穴の向こうには、悔しそうにこちらをのぞき込む、大きな目玉が

現れる。

ギョロリとした目玉に、裕太はヒヤリとする。

「これでも、喰らえ!」

すかさずジュンペイが、持っていた懐中電灯で、渾身の力を込めて、

ぶん殴る。

ギャアー!

ドタリという音がして、もんどり返る巨人の音が聞こえた。


「ちょっと、ハープが!」

 さっきまで、ピーピーとうるさかったハープも、グラリと揺れた瞬間に

おとなしくなった。

(まさか…センサーでも、仕込まれているのか?)

巨人にしては、ずいぶんハイテクだなぁ。

裕太は、変なところで感心する。

ぐわぁ~

凄まじい叫び声が響き渡り、力まかせにドンドンと穴をたたき壊そうと

する音がする。

「早く、閉じるんだ!」

ジャックが叫ぶ。

「えっ?」

何か、ふさぐものはないか?

すぐに、怒り狂う巨人の太い指が、中をかき回すように、突っ込まれる。

「ヤバイ!ここも危ない!早く逃げるんだ!」

この穴も、そのうち…もたないかもしれない。

ジャックが声を張り上げる。

「こっちだ!」

すぐに2人を、奥の方へと誘導する。

 どうしてジャックが、自分たちと一緒にいるのか…

裕太には、今ひとつよくわからない。

だがその合間にも、ドンドンと力まかせに、壁をたたく音がした。

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