第172話 ボクたちは、ナニモノ?

「久しぶりに、楽しい思いをさせてもらったわ!

 ありがとう」

 いきなりサキアさんから、意外なひと言を言われる。

(ありがとうだって?)

よもやこの人の口から、そういう言葉を聞くとは!

何たることだ!

なぜだ?

もはや子供たちには、彼女の思考回路は理解不能だ。

 さらに驚くべきことに、サキアさん自ら、手をすぃっと

差し出す。

そうして強引に、裕太とジュンペイの手を、子供のように

ブンブンと振りまわす。

(なんだ?この人!)

ボーッとして、見ている裕太に、サキアさんはポンと肩を叩く。

「さぁ、君たちの行きたい方へ、行きなさい!

 もっと上でもいいし、

 下に降りてもいい。

 あなたたちのスタートは、ここからよ!」

突然、そう宣言した。


「えっ?」

 だがミスターは、やれやれと肩をすくめると、こそっと裕太の

耳元にささやく。

「気にしなくていいよ。

 サキア様は、とても気まぐれなんだ。

 いつもこんな感じだ」

驚いただろ、と笑う。

「何よ、何のこと?」

だが、当の本人は、シレッとした顔をすると、咳払いをして、帽子を

かぶり直す。

「本来なら…1階の受付で、名前とか登録しないといけないんだけどね」

チラリと冴え冴えとした瞳を、こちらに向ける。

 なに?

 何かあるの?

裕太が思わず息を飲むと、サキアさんはニヤリと笑う。

「あなたたちは、ここの世界には、本来存在しない人間だから…

 いない、ということでしょ?

 なら…いってみれば、ユウレイ?

 それとも、透明人間になるのかしら?

 そんな人は、いちいち登録しなくったって、問題ないわよね?」

朗々と歌うように、そう言った。

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