第252話 キミって、あのジャック?

 ジャックの話は、確かに聞き覚えのあるものだった。

「牛を売りに行く途中で、変なおじいさんにだまされて…

 豆の種と交換をさせられたんだよ」

(それ、お母さんに叱られたんだよね?)

裕太は、あっ、と思い出す。

(これ…絵本のまんまだ!)

 ジャックは、裕太の表情に気が付いたのか…

チラリとこちらを見るけれど、それでも淡々と話し続ける。

「あのツルは、その豆が大きくなって、出来たものだ。

 だから君は、ボクの豆の木を登ってきたんだよ!」

ジャックが言うのを、裕太は確かに聞いた話だ、と思う。

「ねぇ、ジャックって、あのジャック?」

思わず聞くと、少年はへへっと照れくさそうに笑う。

「あのジャックも、そのジャックも、ボクにはわかんないけど…

 ボクは豆の木のジャックだよ!」

やけにはっきりと、そう言う。

 他に何があるんだ、と開き直るように、裕太に向かって

手を突き出す。

「ねぇ、それよりかさぁ~

 何を探しているの?」 

洗面台を見上げると、モップをしっかりと立て掛ける。


「何って、あのぉ~」

 裕太にはもちろん、確信があるわけではない。

光りの加減で、そう見えたのかもしれないし、気のせい

なのかもしれない。

「あれ…なんだけど」

鏡の近くを指差す。

「あれ?」

そんなもの、あるかぁ~?

ジャックはやけに、ピョンピョンと跳ねて、何があるのか、

とのぞき込もうとしている。

「とにかく…この台に、上がりたいんだ」

思い切って、裕太はジャックに宣言した。

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