第222話 ボクたち、食べても美味しくないよ

 図々しいお願いだ…と思うけれども、きっとこの人のよい

マーサなら、叶えてくれるに違いない…と裕太は信じていた。

その後ろ姿に近付くと、水音がピタリと止まり、巨人の女が

クルリと後ろを振り返る。

「なぁに?キミたち…何かあるの?」

自分の足元に立っている、裕太たちをのぞき込もうと、体を

かがめた。

「そうなんだ」

裕太よりも先に。ジュンペイが腰に手をあてて、堂々とした

態度で、マーサの前に立つ。

「そう…」

巨人の女はしゃがみ込んだまま、ジュンペイの身体をつまむと、

目の近くまで持ち上げた。

(うわぁ!)

裕太は驚いて、巨人の女の足元をチョコマカと逃げ回る。

(まるで…ごきぶりだなぁ)

だが、彼女の大きな指は、そんなことなどものともせずに、難なく

裕太の身体をつまみ上げると、台所の縁辺りに、2人を下ろす。


「いいけど…あまりうろちょろしない方がいいわよ!

 ご主人様の好物は、生きた人間の子供なんだからね!」

そう言うと…大きな目玉が、2人の目の前に迫ってきた。

 思わず「ギャッ!」とジュンペイが叫ぶ。

マーサの態度が、あまりにも堂に入っていて、怖くなったのだ。

「ボ、ボクたち…

 食べても、美味しくなんてないよ!」

思わず震える声で、ジュンペイが言うと、

「お前も、何とか言えよぉ」

裕太の背中を押した。

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