第211話 ボクたち、迷子なんです

「出たぁ~」

「ひゃあ~化け物だぁ~」

 ズデンと豪快にけつまづくと、それもかまうことなく、

ジュンペイが叫ぶ。

「化け物とは、何よ!失礼ねぇ」

巨人の女が、ダンと足を踏み鳴らすと、その振動で床が

ビリビリと揺れる。

「おい、ジュンペイ!」

裕太はあわてて、彼の腕をつかむ。

「あんたたち…なに?

 もしかして、さっきの泥棒なの?」

それは、とんだ濡れ衣だ…

けげんな顔をして、その女が2人を見下ろす。


(どろぼう?)

 どういうこと?

そう思うけれど…

まるで超音波と間違えてしまいそうなくらい、巨人の女は

大きな声で叫ぶ。

(み、耳がぁ~)

耳がキーンとして、窓ガラスがビリビリと共鳴する、

何だか、この人を怒らせると、厄介なことになりそうだ…

反射的に、裕太はそう思う。

「ごめんなさい、ボクたち…」

ここまで言いかけて、裕太は言葉につまる。

さて、信じてもらえるには、何と言えばいいのだろう?

ジュンペイを見ると、

《ほら、早く》と、先をうながしている。

ふいに思い付いたのが、この言葉だ。

「迷子…なんです」

そうだ、迷子だ、ボクたちは…

口にした途端、確かにそうだ、と裕太はあらためてそう思った。

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