第52話 ピンチは突然訪れる…
人は、本当に困ったら…手も足も出ないものだ。
悲しすぎたら、泣けないのと同じように。
本当のピンチがきたら…
案外頭が空っぽになって、何も出来ない。
さて…今日のお話は、そんな男の子のお話。
さて…どうなることやら?
研究施設が大騒ぎになっているとは、露知らず…
乱暴にずた袋に放り込まれると、逃げることも、目印を置くことも
かなわなかった。
文字通り、手も足も出ない状態で、裕太は再び連れ去られた。
「やはり…生身の人間の子供じゃないと、キチンとしたデータが
取れないからなぁ」
底光りのする、暗い光を目に宿らせて、この狂信的な科学者が
手ぐすねを引いて待っている頃…
特に事態が好転することもなく、裕太は運ばれた。
白いバンが、慣れた様子で、監視カメラのついた門をくぐり抜ける。
ピー
電子音が響いて、門が自動的に開かれると、すいすいと敷地内に
侵入した。
もちろん裕太には、目的地はどこか…は知らされてはいない。
だが漏れ聞こえてくる声で、何かとんでもない災難が、自分に迫って
いることに勘づいていた。
(どうしよう?)
裕太は真っ暗な中、身動きもかなわず、車に揺られている。
(とにかく…様子を見てから考えよう。
何かあるのかもしれない)
せめて奇跡が起きないか?
あるいは、誰かが救出に来てくれないだろうか?
しびれた頭の中で、ひたすらそれだけを願っている。
(いや、ダメだ!
誰もボクの行き先なんて、わかるはずがない)
ふいに裕太は、絶望に襲われた。
せめて…携帯があればGPS機能で、見つけ出してもらえるかも
しれないのに。
もしくは、発信機があれば!
ラジコンがあれば!
ドローンがあれば?
(それはちょっと…贅沢だな)
今のところは、無策である。
どうにも、こうにも出来ない。
(こうなったら…あの手しかないな!)
裕太は覚悟を決めた。
(止まった…)
ガタンと音がして、車の振動が止まった。
ガタガタ…
何か物を出す音がする。
ザワザワと人の声もする。
耳を澄ますと…
「ドクターがお待ちだ」
「あそこへ」
「この子は、どうする?」
ひそひそと話す声が、きれぎれに聞こえる。
ボクの運命…つんだ…
絶望と共に、そう思う。
せめてここに、石でもあれば!
せめてこの袋から、出られたら!
芋虫のように、裕太はもぞもぞと身体をよじるのだが、
ヒモは固く閉じられて、開く気配すらない。
せめて、ナイフでもあれば!
彫刻刀でもいい!
カッターナイフ?
ライターでもいい!
裕太の頭は、忙しく動いた。
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