第331話 油断大敵!

(あっ、しまった!見つかった!)

 シェーラの視線を感じて、裕太はあわてる。

「ユウタ、早く!」

そう言うが早いか、いきなりジュンペイがシェーラに飛び付く。

「おい、離せ!」

 長い裾のドレスの足の部分に、しがみつくジュンペイを、シェーラは

蹴ったり振ったりして、何とかはがそうとあがく。

(ジュンペイ、ごめん!)

それを見て、心の中で謝ると、裕太はポケットに入っている鍵を、

鍵穴に押し当てる。


「おい、何をする!」

 シェーラの鋭い声を、かき消すように…

ゴゴゴゴゴゴゴ…

目の前の祭壇が、下に沈み込んで行く。

「ユウタ、危ない!」

ジュンペイの手が、裕太に触れる。

「早く、こっちに!」

そう叫ぶと…

ドン!

思いっきり両手で、シェーラの身体を押し出した。

不意をつかれて、シェーラは後方に倒れ込む。

「ちょっと、このガキ!何をする!」

一瞬のすきを突かれたのか、彼女の身体が、グラリと揺れる。

艶然と微笑んでいたシェーラは、すでに女らしさをかなぐり捨て、

子供たちに向かって、罵詈雑言を並べ立てる。


「ユウタ!」

 歯をむき出しにして、青色に光る腕が、ジュンペイの腕をつかむ。

「やめろぉ!」

裕太は一声叫ぶと、とっさに鍵を再び、鍵穴に押し付けた。

(しまった!間に合わないか?)

今度はフワリと、裕太に飛び掛かろうとしているのを見て、

ジュンペイは首にかけていた犬笛を、思い切り吹いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る