第116話 キミたちはどこから?

 昨日はとんだトバッチリで、誘拐監禁されたけれど…

今日はまったく真逆で、丁重な扱いを受けている。

(まさに…天国と地獄だな)

裕太はひそかに、そう思う。

 よそから来た子供たちのことを、どこかから聞きつけた

人たちが、どこに隠れていたのか、というくらい、ワラワラと

現れた。

元より、変化の乏しい、静かな暮らしなのだろう。

訪ねて来る人も、おそらくはあまりいないのか?

バタンと音を立てて、暗闇から飛び出して来る鬼火のように、

1つ2つと光がやって来た。


「ミナト、すごいな、うまくやったな!」

 血気盛んな若者が、ミナト目掛けて走って来る。

「でかしたぞ!

 あのドクターを、やっつけたんだってな!」

(いつの間に、聞いたんだ?)

彼らが帰って来たのは、深夜だ。

だがそんなことは、これっぽちも気にすることなく、好奇心と

純粋な歓迎ムードが、その場を包み込んだ。

そうして、あっという間に裕太たちも、地下の人たちに

取り囲まれた。


「ほら!メッセージバードが、教えてくれたんだ」

 1人が声高に言う。

「メッセージバードが?」

裕太は驚く。

「あれ、カメラ機能がついているんだ」

そうだ、と得意気にミナトが言う。

(いたっけ?そんな鳥)

裕太は頭をかしげるけれど…何しろ自分は、ほぼ捕まっていたし、

気付かなくても当然か…と、黙っておくことにした。

「それにしても、勇気があるな、君たち!」

「子供なのに、偉いぞ!」

よってたかって、褒めそやされる。

 何だか、この人たち…

きっと、いい人なんだろうな、と裕太は自分たちを取り囲む人を

見て、そう感じていた。


 思いのほか、昨日の出来事のあらましは、彼らの耳にも届いていた。

ミナトたちの活躍のこと。

ジュンペイの爆発騒ぎ。

どこかからやって来た、という裕太たちのことまで…

この好奇心に満ちた人たちが、口々に言った。

「キミたちは、どこから来たの?」

「上の方?」

「遠いって、この山の向こう?」

「えっ」

何と答えよう…

裕太とジュンペイは、互いの顔を見合わせた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る