第70話 逃げろ~!

(何だか、厄介なことになったぞ)

 ジュンペイは、複雑な気分だ。

あれからドクターが、どうしたのか、ピタリと天井からの

声が途絶えた。

しかし…何か嫌な予感しかしてこない。

(今頃、また例の男たちが、ここに来るのだろうか?)

早く救出しなければ、と思う。


「いいんだよ」

 せっかく檻から出られた、というのに、早速ドクターに

見つかってしまった…ということを、

さしてショーンは、怒ったり、悲観したりはしていない。

それよりも、ようやく身軽になったのが、嬉しいらしく、

時折自分の翼をバサバサと揺らしたり、広げたりしている。

「丁度、檻の中にいるのに、飽き飽きしていたんだ!

 窮屈だし、出られないし…

 だからもう、こんな所には、未練なんかこれっぽっちも

ないよ」

それは本心なのか、それともショーンのジュンペイへの

気遣いなのか…

だが確かに、セイセイした、という顔をしていた。

「わかったわ」

 キッパリとした声で、マリさんはいきなり言う。

「それなら、早く…ここを出ましょ」

ジュンペイに向かって、片目をつむってみせた。


 するといきなり、天井からモクモクと煙が吹き出してきた。

「えっ、火事?」

ジュンペイが上を向くと、ショーンがあわてて、ジュンペイの

頭をおさえ

「煙を吸うな!

 あれは…神経ガスだ!」

口に手を当てて、急いでドアへ向かう。

 天井の換気口から、大量の煙が侵入していて、次第に視界が

霞んで見えにくくなってきた。

「早く!逃げるんだ!」

マリさんがノブに触れると、カチリと音がした。

「こっちへ!」

迷うことなく、ショーンは通路を走り抜ける。

ショーンの目が、サーチライトのように、暗闇を照らしている。

「便利だなぁ」

ジュンペイが羨ましそうにつぶやくと、

「あのドクター、ボクの身体で、散々遊び倒しているからなぁ」

苦笑するように言う。

(ショーンって、人間?

 それとも、ロボット?

 それとも…なに?)

ジュンペイが、ぼんやりと思っていると、

「ボクはアイツのモルモットさ!」

平然とした顔で、ショーンが言うと

「こっちへ!」

さらに前を駆けて行った。




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