第293話 逃げるが勝ち!

「うわぁ~ヤバイ!裕太、逃げろ!」

 ハープを抱えたまま、ジュンペイが叫ぶ。

「こらぁ、ドロボー!ハープを返せ!」

割れんばかりの叫び声で、部屋のガラスがビリビリと振動する。

さらには、地響きのような凄まじい足音が、裕太たちのすぐ

近くまで、迫って来ていた。

「こっちだ!」

わずかなスキを狙うと、ジュンペイが裕太に叫ぶ。

その声に反応して、裕太もダッシュで、暖炉まで駆け抜ける。

その合間も、ハープを抱きかかえているので、もちろんのこと

アラームが鳴りっぱなしだ。

「ドロボー、ドロボー」

ピーピーピーピー

「通報しました、通報しました」

「待てぇ~」

とんでもないパニック状態だ。

「早く逃げろぉ~」

ドスドスと大きな足音と、ハープのアラーム音と、

ジュンペイの叫び声と。

凄まじい喧騒に包まれて、裕太は無我夢中で、心臓が破れて

しまうのではないか、というくらい、手足をものすごい

スピードで、ガシガシと動かした。

捕まるくらいなら、死んだ方がマシだ、と足がもつれそうに

なるくらいに。

すると…

ゴーッという音がして、

「こっちだ!」

今度は、ジュンペイとは違う声が、聞こえてきた。

 声のする方に目を向けると…

暖炉の横に、小さな穴が開いていて、そこに男の子の顏が

ヒョコンとのぞいていた。



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