第133話再戦!ゴナタ!の作戦とドッコイドッコイ
「来たぞっ! クレハン。でもお姉ぇがいなくなっちゃったんだよなぁ? どこに行っちゃったんだろう。あれ? この気配は」
頭の後ろに手を回しながら周りを見渡し、こちらに歩いてくる。
そしてゴナタはクレハンに呼ばれた、訓練場の中央に足を踏み入れる。
すると、そこかしこから声援が上がる。
「お、今度は妹の方かっ!妹も大層な物持ってるよなぁ!」
「ああっ! 色気のある姉とは違うが、持ってるものは素晴らしいぜっ!」
「うん? それにしても、うちの街の英雄さまはどこにいるんだ? ひんぬーの」
「ああ、そう言えば姿が見えないな? 英雄のスミカの」
『………………』
「お、お前、ひんぬー言うなっ! あいつだって好きでああなったわけじゃないだろっ! それと、あの双子と比べる時点でおかしいんだよっ! あれは次元が違うんだからっ!」
「え、それじゃお前、スミカはひんぬーじゃないって言うのか? あんなに真っ直ぐなのに? あそこにいる相棒のユーアと殆ど変わらないのに?」
『………………』
「いや、そうは言ってねぇだろっ! そもそも比べる相手がだなぁっ!」
「…………もう認めちまえよ。姉妹云々の話は無しにしても、一般的に見てスミカはあのパーティーの中で一番のひんぬーだと。ユーアと変わらねえと」
『………………』 トコトコ
「うっ、そ、それは―――― み、認める」
「だろう? だったらお前も言ってみろよ? 一緒によぉ、せーの、ひん――」
「お、おうっ、わかった、せ―の、ひん――」
クルンッ
「…………何か私の悪口言ってない?」
透明鱗粉を素早く回転して剥がし、二人の男の前に姿を現す。
「へ? えっ、ええええええっ!!」
「あ? あっ! あああああああっ!!」
「ねえ、どうなの?」
「い、いや~どうだったかなっ! オレは言ってないと思うぜっ! なあっ?」
「お、おうっ! まさかこの街の英雄さまに悪口なんて言わねえよなぁっ!」
「ふ~ん、それじゃ私の聞き違い? 姉妹がどうとか、ユーアと変わらないとか色々と聞こえたんだけど。それと――――」
「うっ……」
「…………ゴク」
「それと私が、ひん――――」
「あ、やっぱりこっちにいたっ! お姉ぇっ! もう試合始まるから集まってくれってクレハンが言ってるぞっ!」
「あっ、悪い悪いっ、直ぐに行くよっ!」
私はゴナタに手を挙げて、クルリと踵を返す。
「…………ホッ」
「………………」
「あ、それと言い忘れてたけど」
私は首だけを後ろに向けて、その二人を見る。
「うわっ!」
「な、なんですかっ!?」
「…………私、ユーアよりは大きいから。これでもお姉ちゃんだし」
「え?」
「はあ?」
それだけ言って、私はゴナタに向かって歩いて行く。
だって最後まで勘違いされたままでは嫌だからね。
そもそも事実を語ったに過ぎないし。
お姉ちゃんはユーアより大きいんだと。
だから私はお姉ちゃんなんだ。とね。
「悪いね、ゴナタとクレハン待たせちゃって」
中央で待っている二人に合流して声を掛ける。
さぁ、今度はゴナタとの再戦の時間だ。
※※※※※※
「それでは、スミカさんとゴナタさん、両名とも準備はいいですね?」
「うん、私は大丈夫」
「うん、ワタシもだっ!」
私とナゴタは訓練場の中央で向かい合い対峙する。
「わかりました、それでは始めましょう」
クレハンは私とゴナタを見渡して「スゥー」と息を吸う。
そして、
「只今より英雄スミカとBランク冒険者ゴナタの試合を開始しますっ!」
開始の合図をして、クレハンは直ぐに下がって行く。
観客からは開始の号令とともに、大勢の歓声が上がる。
「お、今度はいきなり消えねえなっ!」
「そうだな、さっきの戦いはスゲエと思ったけど、正直早すぎて良く分からなかったからなっ! 今度は俺たちにでも見えそうだっ!」
「ああ、これで英雄スミカの雄姿がハッキリおがめるぜっ! それにしてもよお?」
「…………わかっている。あれだろ?」
「うん、あれだ。あれは絶対に勝てねえ」
「「この街の英雄は、戦う前から圧倒的に双子に負けている部分があるっ!」」
『イラッ』
「よし、お姉ぇっ!こっちから行くぞっ!」
私が一部の観客の言葉に気が削がれている間に、ゴナタが先制を仕掛けてくる。
「それっ!」
ブンッ!
ドゴォォ―――――――ッッッッ!!!!
ゴナタはマジックバッグから愛用のウオーハンマーを取り出して、私に向けて大きく振り降ろす。攻撃を躱しゴナタが叩いた地面は、その威力で大穴を開ける。
「お、やっぱり避けたなっ! お姉ぇっ!」
「そりゃそうだよ。今の状態でそんなの受けたら死んじゃいそうだもん」
「それじゃ、続けて行くぞっ! それそれそれっ!」
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「まだまだっ!」
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「?」
「もっとだっ!」
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「………………何やってるの? ゴナタ」
思わず薄め目でゴナタに質問する。
ゴナタは、最初の攻撃を私が躱してから、ひたすら地面に大穴を開けてるだけだった。
私がいないところを中心に巨大なハンマーを何度も打ち付けていた。
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「何って、見ればわかるだろっ! お姉ぇ」
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「いや、わからないから聞いてるんだけど、私」
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ! ドゴォ―ンッ!
「ふうっ、もういいかな?」
そう言ってハンマーを下ろしたゴナタは、周りを見渡しながら満足そうに頷く。
『ははぁん、なるほど』
その光景を見て、ゴナタのしたかったことを悟る。
凸凹になった訓練場を見て。
「ははっ! これならナゴ姉ちゃんの時みたく速い攻撃は出来ないだろっ!」
ハンマーを肩に担いでニカと微笑みこちらを見る。
きっとゴナタは、ナゴタとの戦闘を見て、私のナゴタを捉えた動きと速さを塞ぎに来たんだ。足場を悪くして、その動きを封じようと。
『しかも、私がスキルを使わない事まで見越している? 私の速さを塞いだって、以前にゴナタは速さ関係なく私に惨敗したんだからね』
それでこの戦法を選んだって事は、きっとそうなのだろう。
スキルを使わない私と正面からやり合うつもりだろうと。
だけど、何かを忘れているような……
「でもさ、私の動きを塞いだって、ゴナタ自身も動きづらいんじゃないの?」
得意げな顔のゴナタに言ってみる。
「へ?」
「だってそうでしょ? こんなに地面がデコボコになってたら、私はもちろん、ゴナタだってかなり戦いずらいと思うよ? 寧ろ武器がない私の方が動きやすいし」
「あっ!?」
「…………………ほらね?」
「そ、それは、あ、あれだよっ! 当たれば問題ないじゃんっ! どうせお姉ぇは防ぐ手段ないしっ! まともに当たればお姉ぇだってっ!」
「うん、まあそれはそうだね。ただ当てずらいと思うよ? こんなに足場が悪くちゃ安定しないし、狙いも付けづらいし」
「ま、まあ、細かい事は気にすんなっ! そ、それじゃ行くぞっ!」
若干どもりながらも、誤魔化すようにハンマーを振り上げる。
『はぁ、ゴナタにしては一生懸命考えた作戦なんだろうけど、これって文字通り――――』
穴だらけだよね? きっと。
私にしてはうまい事を心の中で思った。
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