第417話状況確認と姉離れ?




 この大陸では2番目に標高が高いとされるマング山。

 その中腹にあるのがナルハ村で、広大な高原と緑豊かな大自然に囲まれている。


 人口は凡そ200人。

 どの家庭も代々酪農で生計を立て、乳製品の産地として最も有名な村だ。


 目の前の少女、イナもその例に漏れず、

 父親と二人で牛の飼育と酪農で生活をしていた。



「それで落石があって、あなたの父親のラボさんと見張りの人たちが洞窟内に閉じ込められてるんだ、それも牛も一緒に…… で、中腹にアイツらが穴を開けて中に入って行ったんだ」


「そうだっ! だから早く親父たちを助けて欲しいんだっ!」


「うん、それは心配だね…… で、最後にもう一つ聞きたいんだけど、洞窟の広さと中はどうなってるの? 崩れやすいなら、色々と策を考えないと」


 縋るような目で、私に訴えるイナ。

 それを抑えて、中の状況を聞いてみる。



「それは大丈夫だっ! 中は広くて硬い岩盤で出来ているから簡単には崩れないはずだっ! アイツらが中で暴れなければだけど…… あ、あと中は迷路のように入り組んでて、大小の洞窟もある」


「そうなんだ。なら急いだほうが良いかも」 

「な、なんでだっ!?」

「多分だけど、入って行った魔物が、お父さんたちを見付けたみたいだから」

「はぁっ!?」


 MAPは出来ていないが、索敵モードに映るマーカーを見て答える。

 大量のマーカーの近くに、大きな複数のマーカーが迫ってるように見える。


 恐らく数の多いものは人間と乳牛たち。

 ひと際大きなものは、あのワイバーンだろう。



「ユーア、ここを任せても大丈夫?」


 驚くイナを置いて、隣のユーアに確認する。


「えっ?」


「ロアジムとイナはこのまま魔法壁の中にいてもらうから、ユーアとハラミには、アイツらの相手をして欲しいんだ」


 真っすぐにユーアの目を見て話す。


「ボ、ボクとハラミとですかっ!?」


 驚いたように目をぱちくりさせて見上げてくる。


「うん、そう。できる?」


「は、はいっ! ボクとハラミでやっつけますっ!」

『きゃうっ!』


 胸の前にハラミを抱き、元気に答える。


「なら、私はイナのお父さんと、村の人たちを助けに洞窟に入るよ。だから外の魔物は任せたからね。それと洞窟には近づけさせないで。また攻撃されて、中が崩れたら大変だから」


 ニコと微笑みかけ、ユーアとハラミを撫でる。

 そんな一人と一匹はソワソワと体を揺らしていた。


 

「い、今の話は本当なのか、スミカっ!」


 話を聞き終わり、慌てた様子で詰め寄るイナ。

 その口はわなわなと細かく震えていた。



「確実とは言えないけど、可能性は高いと思う。だから二手に分かれるから」

「何でそんな事わかるんだよっ! だって中は広くて迷路みたいなんだぞっ!」

「え? なんでって、言われても……」


 イナの鬼気迫る表情に口ごもる。

 それは真剣に中の人たちを心配しての事だろうと。


 だからここで曖昧に誤魔化すような事は言えない。

 それこそまた疑心暗鬼になられても困るから。



「え~と、何て言っていいか……」

「スミカちゃん」

「ん? なに?」


 今まで、事の成り行きを黙って聞いていたロアジムに呼ばれる。



「ここはわしに任せて、スミカちゃんは中の人たちを助けに行ってくれ」

「う、うん、ならお願いするよ」


 今までに見せなかった、真剣なロアジムの表情に押されて了承する。

 

「でもいいの? 勝手に進めておいて今更なんだけど、護衛対象から離れちゃうし、面倒な事をロアジムに押し付けちゃうし」


「わははっ! それも確かに今更だなっ! でもここには蝶の英雄の一番の妹と従魔が残るんだろう? それにスミカちゃんの魔法壁があれば、ここが一番安全だろうしなっ!」


 真摯な表情から一転して、ニコと微笑み返す。

 さらに続けて、


「それに、今の話を聞いておったが、スミカちゃんの言う事が今は最善だし、ならわしはそれ以外で助力をしたいのだよっ! 要は適材適所だなっ!」


 最後にドンと胸を叩いて、私とユーアを見渡す。



「よし、そこまで言われたんじゃ、私も心残り無いまま中に行けるよ」

「うむ」

「それじゃ、急いで村の人たちを救出に行ってくるよ。っと、その前に――――」


 タタッ――

 ギュッ!


「え? スミカお姉ちゃん?」


 突然のハグに、戸惑いの声を上げるユーア。

 耳元だったので、ちょっとくすぐったい。



「本当はこんな事お願いしたくなかったんだけど、任せる事になっちゃってごめんね」


 ユーアのほのかに香る甘い匂いと、温もりを感じながら耳元で呟く。


「スミカお姉ちゃん。その話はこの前で終わったんじゃないの?」


「うん、それもわかってる。だから今回はユーアに任せるって決めたから。でもね、もしね、仮にね、間違ってね、万が一ね、ユーアの身にね――――」


 ユーアの言う通り、私はシスターズたちの想いと覚悟を知っている。

 だから制限付きで戦う事を許可したし、その実力も信じている。


 それに今回の魔物の相手は、私より、ユーアとハラミには相性がいい事も。



「もう、スミカお姉ちゃん、ボクは大丈夫だよっ! ハラミもいるし、凄いアイテムもあるし、それにボクはスミカお姉ちゃんの一番の妹なんだよっ! だから心配しないで」 


 ギュッと腰に手を回し、聞き分けのない姉に諭すように話す、我が妹。 

 その顔は、怯えでも真剣でもなく、ただ嬉しそうに表情を綻ばせていた。



『ふふ、随分と頼もしくなったね、数週間前のユーアとは別人だよ。私と冒険したいって言いながら、いつも自信なさげだった、あの時とはね』


 

 出会った頃のユーアの願い。


 それは私と一緒に冒険をしたいと、強く切望した事。

 

 だから私は何時いかなる時でも、か弱いユーアを守ると決めた。

 それだけの実力と覚悟があるから。


 だけど、ユーアにとって、それは冒険とは認められなかった。

 守られて冒険するのと、一緒に冒険するのとは、似て非なるものだった。


 ユーアは私に守られる事を良しとしない。

 頼もしく感じてはいるけど、きっと心からは望んでいない。


 そんなユーアだから強さを求めた。

 私に認められたい、任せられたいと、ユーアなりに力を欲した。



 そんな崇高で、甲斐甲斐しい妹の願いだからこそ、


「任せたよユーアっ! なら私も負けないように張り切っちゃうからね」

「うんっ!」

『きゃうっ!』


 その願いも含めて、ユーア守ると決めている。

 それが保護者としても、姉としても当たり前のことだから。


 そうして、ユーアと別れて、お互いの戦場に乗り込んでいった。

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