第56話ユーアの武器と不穏な空気と戦う男たち




 ユーアのサポートもあり、3分の1程にオークの数を減らすことができた。

 初めて扱った武器にも関わらず、立派に援護の役割を果たしてくれていた。



 私がユーアに最適だと思って、渡した武器は『ハンドボウガン』

 渡した矢は『スタンアロー』


 このボーガンはベルトで手首に固定し、ボウガン後ろの引き金で発射され、最高で5矢を同時に射出も可能なゲーム内の武器だ。


 そこから打ち出されるのは、短矢の形状を模したエネルギー弾となっており、

 今使っているスタンタイプの他にも矢は色々あるが、今は割愛する。



 私がなぜ、この武器がユーアに最適かと思った、その理由は5つある。


 1.中、遠距離で、比較的安全なとこから援護ができる。

 2.狙撃手との透明化鱗粉との相性も抜群。

 3.さらに、私の透明壁スキルを盾にして身を守れる。

 4.状態異常系の矢は、私に当たっても装備の効果でほぼ無効化できる。


 などなど。



 そして一番最後の理由は――――



 5.ユーアは『視えている』ことである。



 この村のオークの数を聞いた時に、ユーアはほぼ正確に把握していたのだ。


 それがユーアにはどう視えているのか。

 それは能力なのか? 魔法なのか? スキルなのかはわからない。


 ただこの視えるだけでも非常に強力だし、そして遠距離武器はユーアとの相性がいい。

 その視え方によっては、私の索敵よりも非常に強力な武器となる。



『……私の索敵モードは、視界のに映すから、正直、戦闘中は邪魔なんだよね。だから視覚と索敵を切り替えして対応しているんだけど、でも――――』



 でも、ユーアはそれを常に、視覚と索敵をしている状態と一緒なのだ。


 遠隔地や俯瞰的に周りを見渡す、千里眼より強力なものかもしれない。

 それに遠距離武器のスキルが上がれば、ユーアは十分に戦力として数えられる。



 本当は、それ以上の高火力の武器を渡せればいいんだけど、今のこの防具で、私が装備ができなかったので、私がいたゲーム内でも、、その時は持っていなかった。


 ゲーム内に戻れれば、さらに強力な武器だけではなく、それこそ現実世界にも存在しない、ゲーム内だけの理不尽なアイテムを大量に保持してある。


 ただそれらは、私のゲーム内でのホームに設置してあるストレージボックスの中にある。


 そのボックスに、この世界からもアクセスできれば…………

 とも何度も考えた事はあったが、無い物ねだりをしても仕方ない。


 異世界チートがあるくらいだから、もしかしたら、なんて思ったり、思わなかったり。

 でも今は絵空事を描いても仕方ないので、あるもので対応していくだけだ。



 私は予想以上の成果を挙げるユーアの射撃のスキルに内心驚きながらも、この上なく頼もしいと思った。まるで本当の妹の活躍のように。



 私の相棒は、ただちっちゃくて、髪もほわほわの心地いい手触りで、色も白くて、目もクリっとして、薄い緑の神秘的な瞳で、自分を「ボク」て言うのも可愛くて、体の割には食いしん坊で、そんなユーアは――――


 ただ可愛いだけのマスコットキャラではなかったって事だ。




 私は屋根の上を残っている3機の円錐を、周囲に展開して疾走する。


 次々にユーアの射撃で動きを止めるオーク共を、範囲に入った順から串刺しにしていく。中には、矢を射ってくるもの、投石をしてくる者もいるが、そんな速度の攻撃なんて当たる筈がない。


 私が元いたゲーム内では、それよりも数段速い

 銃弾の中で戦ってきたのだから。



「そろそろかな?」


 私は、最初の5体を倒した時に手を真上に挙げて、ユーアに合図を送っていた。

 ユーアはその合図で、打ち合わせ通りに信号弾を上げていた。

 そして、その直後に上空で赤い閃光と破裂音があったのを確認している。


 何の為の信号弾だったって?


 それは――――





「よっしゃァッ! クレハン。あれが嬢ちゃんが言っていた合図じゃねえかァ!」

「はい、間違いないですっ! あんな合図出来るのはスミカさんだけですからっ!」


 そう、私以上に戦いを待ち望んでいる二人に知らせるためだ。

 二人にとっての開戦の狼煙を。



「さあァ、暴れるぜぇ!」

「お供します。ギルド長っ!」


 俺は愛用の長剣を両手に握りしめて森から駆け出す。

 クレハンも、短剣を逆手で両手に持って後に続く。



 ここから見える村は、嬢ちゃんたちがオーク共を中心に引き付けたんだろう。

 村の周りのオーク共が見えなくなっていた。


 俺とクレハンは壊れた囲いを乗り越え村の中に入る。



「どこにいるんだ、わかるかァ? クレハン」


 俺は敵味方の居場所の見当がつかなかったのでクレハンに声を掛ける。


「北だと思われますっ! 錆びた匂いや叫び声のような声が聞こえてきますっ!」


 クレハンは冒険者時代、シーフ兼斥候でもあったからだ。

 その嗅覚や、聴覚、そして視覚も非常に頼りになる。



 俺とクレハンは半壊した建屋が立ち並ぶ広い通りを走っていく。


「まさかァ、嬢ちゃんたち、奴らをもう根絶やしにしてねえだろうなァ? 俺たちの出番が無くなっちまうからよォ!」


 なんて、冗談をクレハンに振ってみる。


「いや、あり得ない話ではないですね、あの二人なら」


 それをマジな顔で返してくる。


「ハァ? そんな訳って。頭がいいお前が言うと怖えんだよなァ!」

「………………」

「どうしたァ、クレハン?」


 突然黙りこくったクレハンに視線を向ける。


「…………どうやら、はいらなかったようですよ。ギルド長」


 クレハンは正面の通路をみて、そう答える。

 その顔は「にやぁ」と口角を上げて喜んでいる。


 その直後、俺たちが目指していた方向の両隣の通路、そして屋根、家の中、俺たちの後ろからも、オーク共が姿を現した。その数は13体。


 いずれも粗末ながらも武器と防具を手にしている。


「ハッハッァ――ッ! 楽しくなってきやがったなァ! そうだろクレハン?」


「ええ、そうですねっ! ギルドの仕事もあれはあれで楽しいですが、やっぱり刺激が欲しいですよね、元冒険者としてはっ!」


「んじゃ、屋根の弓の野郎は任せたぜッ!」


 俺はクレハンにそう告げ、建屋の壁に近付き、持っている長剣を地面に突き刺す。


「はい、任されましたっ!」


 クレハンは突き刺した長剣の剣底を踏み台にして屋根の上に跳躍する。


「ブグォッ!」


 クレハンが屋根の上に姿を消したと同時に、俺にオークが切りかかってくる。


 俺は即座に突き刺した剣を抜き取り、その攻撃を左手の長剣で、振り払い、もう一本で袈裟懸けに切りつける。


 その切りつけた剣は、首筋から入り込んで胸半ばで止まっている。


「ハァ、固ってえなァ! ならよッ!」


 俺は先に振り払った剣を戻し、その勢いでオークの首を刎ねる。

 首のなくなったオークは、噴水の様に体液をまき散らしながら倒れる。



「おっしゃァ――ッ! まず一体ッ! そらァ次はどいつだァ? ちんたらしてねえで一気にかかってこいやァッ!!」


 俺は刺さった剣を抜き取り、オーク共を挑発する。残り4体。

 早くしないと、嬢ちゃんたちに殆どを持ってかれちまうからよォ!



「おっと、危ない。いくら粗末な矢でも、毒が塗ってあるかもしれませんからね」


 わたしは飛んでくる矢を屈んで躱しながら、懐のナイフを投擲する。


 シュッ


「グゲェッ!」


 喉元に刺さったそれだけでは、オークは倒れない。

 それでも一旦動きは停止する。


 わたしはその隙に、オークに近付き持っている短剣を心臓に突き刺す。


「グ、グガァ…」


 そしてオークを反対側に蹴り落す。まずは1体。

 屋根の上には、あと3体。


「さあ、のお仕事の時間ですよっ!」



 わたしはそう叫んでオーク共を睨みつけ、愛用の短剣を逆手に構える。



※※



「んっ!」


 私は1体、また1体と、次々に湧いてくるオーク共を、薙ぎ払い、潰し、脳天より串刺しにし、数を減らしていく。


 奴らが近づく前に、私から接近してその中心で台風のように惨殺していく。


「残りは後どのくらいなの? これ間に合うの? ………」



 私は内心焦っていいた。



 オーク共の数は、もう3分の2ほど殲滅している。


 パッと見て、私の周りには20数体。

 少し離れたところに映るものは多分ルーギル達だろう。

 そっちには10数体が見える。


「なんで、こんなにの?」


 そもそも人間相手とは違うのか、それとも魔物のせいなのか、私のスキルレベルが



 レベルが高くなれば、それだけ経験値が必要なのはわかる。


 最初に上がったのは、ルーギル達とスバが扮したランクE、Dに相当にする偽野盗と戦った時。次に冒険者ギルドで絡まれたランクC上位の冒険者4人。


 なら、今まで戦った人たちより格段に弱いコイツらでは上がりずらいとは思う。

 それでも数だけならば圧倒的に多い。


 そんな訳で、私は内心焦っていた。


 それにもう一つ。



『――――もしかしたら、ユーアも気付いてるかもだけど、オーク共は私たちにほぼ総攻撃を仕掛けていると言ってもいい。殆どがここに集まっているし……』


 だが少し離れたところの、二つの反応は全く動いてない。

 その反応は、1つは「小さい」がもう1つは「大きい」



 これの意味する事って? 

 もしかして――――


 私は殲滅スピードを更に上げる。



 私の知らないところで何かが起こる……

 そんな予知にも似た嫌な予感がしたからだ。

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